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その日の夜、Aさんは風呂に入っていると、後頭部を何かに殴られた衝撃を感じた。そして次に、床に何かが落ちる音。
――ぼとり。
振り返ると、肉塊が。昼休みに桜の木の下で見た肉塊より少し小さかった。ピンク色で、やっぱり、ところどころに血管が浮き出ていた。
Aさんは絶叫しながら風呂場を出た。体を洗ってる途中だったのに、ろくに流さずに、体も拭かないでびしょびしょのままパジャマを着て、母親に訴えた。風呂場に肉塊がある……と。
母親は「虫かなんかを見間違えたんじゃないの?」って風呂場に入って行った。しばらくして、「何もないじゃないの」って呆れたように言った。そんなはずはない、さっきたしかにそこに肉塊があったのに。
Aさんは、疲れているから幻覚を見たのだと納得し、今日は早く寝ることにした。でも、なかなか寝付けなかった。そうこうするうちトイレに行きたくなって、ベッドから出た。ベッドから足を出した瞬間、
――ぼとり。
Aさんはびっくりして、少し漏らしてしまった。部屋は真っ暗で、怖くて床に足を付けたくないけど、トイレに行かなきゃいけないし、そのためには電気のついていない部屋の出入口まで歩かなければいけない。
Aさんは深呼吸して、それから床に降り立つとドアまで一気に走った。
――ぐに。
途中でやわらかいものを踏んづけて転んだ。完全に漏らしてしまったので、トイレなどもうどうでもよかった。怖いもの見たさで、さっき踏んだものを恐る恐る手で触ってみると、生の鶏モモ肉みたいな手触りだった。少し硬い部分もあった。Aさんは立ち上がって、ドア横まで歩いて、電気のスイッチを入れた。
床には、肉塊が落ちていた。ピンク色で、ところどころに血管の赤。先ほど触れた固い部分は”爪”だった。そしてこれが「人肉である」と唐突に理解した。
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