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Aさんは半狂乱で肉塊をゴミ箱に投げ入れ、袋の口を縛って、手を洗ってから、濡れてしまったズボンと下着を着替えて寝た。
ほとんど一睡もできなかったけれど、朝は来た。恐る恐るゴミ箱の袋の口をほどくと、中には昨日入れたはずの肉塊はなかった。
それからだんだんと、Aさんはやつれていった。肉塊の幻覚が見えるからメンタルクリニックを受診したいと両親に頼んでも、「娘が精神病だなんて耐えられない」と言われ、行かせてもらえなかった。
そしてある日、その日は体育の時間だった。校庭で運動会のリレーの練習をしていた。Aさんはスタンディングスタートの姿勢を取り、手を後ろに出してバトンを待っていた。バトンを持った走者があと二十メートルくらいまで近づいていた。
十五メートル、十メートル……とだんだん近づいて来て、
――ぼとり。
肉塊が目の前に落ちてきた。Aさんは悲鳴を上げた。その肉塊には、目玉がついていたから。ガラス玉のようにうつろな黒い目と、目が合った。
Aさんは叫びながら全速力で走った。コースを無視して、バトンを持った生徒が驚いて声を上げても、先生が戻りなさいと怒鳴ってもお構いなしに、肉塊から逃げるように走った。走った。走って、いつの間にか、中庭にある桜の木の下まで来ていた。
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