桜と肉

4/5
前へ
/5ページ
次へ
 Aさんは何度も何度も、桜の木に頭をぶつけて血まみれだったんだって。 救急車が呼ばれて、Aさんは病院に運ばれていった。結局、中三の夏休みくらいまで、Aさんは精神病院で過ごすことになったんだって。  でさ、桜の木なんだけどまだその中学にあるらしいよ。今はもう、「中庭にある桜の木に近づいてはいけない」なんていう言い伝えは廃れちゃったから、今日も誰かが肉塊を見ているかもしれないよね。 「あ、そうそう。そういえばうちの大学にも桜の木あるよね。毛虫が出るからって、あんまり近づく人いないけど、もしかしたら……ね?」  私は、ふーっとロウソクの火を吹き消した。周りを見渡すと、結構みんな怖がっていて効果は抜群だ。教室には大きな張り紙が貼ってある。「第二百十八回 オカルト研究会 百物語」 「ねぇ、それ本当にあった話なの?」  眼鏡をかけた女学生が声を震わせて尋ねる。 「うん、ホント。私は大学からこっちだけど、先輩は北海道の××畜産大学に通ってるよ」  そういうと、彼女は神妙な面持ちでごくり、と唾を飲み込んだ。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加