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翌朝、朝食を作る為に早めに起きた水無月は早々に着替えて顔を洗うと居間へと向かった。昨日の残りのシチューを温めながら、サラダとソーセージを焼いていると大きな欠伸をしながら伏見が居間に入って来た。
「御早う。」
「御早う御座います。珈琲にしますか?」
「う~ん、麦茶が良いかな~…。」
未だ目が覚めていないのか大きな欠伸をしては椅子に座る姿を眺めては、グラスに氷を入れて麦茶を注ぐと伏見の前に置いた。
朝食をテーブルに並べ食べ始めたが、まるで幼子の様に眠気に襲われながら食べている様子を見て苦笑いを浮かべていると、携帯の着信音が鳴った。伏見は其の音に驚き目を覚ました様で、携帯を手に取り耳に近付けた。声が此方まで聞こえる程大きく明らさまに顔を顰め乍ら話すと携帯をテーブルに置いては溜息を吐いた。
「早く買い出しを済ませようか。」
「何か有ったんですか?」
「午後に篤十が来るみたい。」
「捜査の件ですか?其れにしても何か怒ってたみたいですけど…。」
「連絡無視してたから怒ってたんだよ。早朝から連絡入ってたんだけれど面倒で。」
向けられた携帯の画面には何十件も未読のまま放置されていた。睡魔には勝てなかったのだろう。
「扨と、早く食べて支度をしようか。」
朝食を食べ終え、御互いに支度を済ませると伏見が先に車を取りに出た。数十分程待っていると修理を終えた車と共に戻って来た。
「運転、大丈夫ですか?」
「心配しているのかい?大丈夫、安全運転を心掛けているからね!」
伏見の運転は少し危なっかしい所が有り、普段余り酔わない水無月でも軽度の吐き気を催してしまった。服や食料等の必要な物を購入し、事務所へと戻れば車庫には鈴村の車が既に停まっていた。
鈴村は事務所の合鍵を持っているらしく、事務所は冷房が掛かって涼しくなっていた。
「早かったね。」
「そうか?水無月君が何で手前の荷物係に成ってるんだ。」
「水無月君、私の助手に成ったんだよ。住み込みでね。」
「助手だぁ?手前、依頼人を扱き使うのかよ。」
「あの、僕が頼んだんです。伏見さんの助手をしたいって。」
水無月の様子を見て何か察知したのか、其れ以上は何も言う事は無かった。荷物を整理し終えると、三人分の麦茶を用意しては伏見の隣に座った。
「尾崎達から報告が入ってな。被害者と会っていた男の名は雲龍有栖。数日前に自宅で自殺している。」
真冬と会っていたと云う男、雲龍は自ら命を絶ったと判明した。
遺書は無く、自分の首を刃物で切って亡くなった雲龍は家族は居らず、一人で細々と生活していたらしい。真冬と何の関係が有るのかは未だ判明していないとの事だった。
「加害者の自宅に行きたいんだけれど。」
「尾崎から住所を教えて貰っている。」
「そう。今から行こう。」
伏見は何か気になるのか雲龍の自宅へと向かった。
大家には前もって伝えていたのかすんなり鍵を借りる事が出来た。古いアパートで部屋の中は必要最低限の家具しか置かれて無かった。
床や壁が血で染まり、異臭がこびり付いている。遺体が発見されたまま放置されている部屋は数日後に清掃が入るそうだ。
「遺書は?」
「厭、何も無かったらしい。」
「…そう。」
伏見は黒ずんだ血痕に触れると、其の儘動かなく成った。此の異臭で体調が悪くなったのかと心配になった水無月は声を掛けたのだが、伏見は頭を押さえては苦しそうに声を漏らした。
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