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脳華事件
『_先月下旬に廃ビルにて女性の頭部が発見され、脳華事件の被害者は此れで十名になり警察は…』
硝子越しのテレビから流れるニュースを立ち止まって観ているのは一人の青年だけだった。
二千××年の日本では、人間の所業とは思えない犯罪を犯す人間に怯えて生きている。
同族を殺害し食らったり、内臓を取り出し虫を入れたりと普通の人間とは思えない犯罪を犯し、自身の嗜好欲求に逆らう事が出来ずに犯罪を犯す者が〈カーニヴァル〉と呼ばれ恐れられている。
半年前のある日、街の路地裏で頭部の無い女の遺体が発見された。
頭部は発見されず、数日後に現場から離れた公園にて頭部が発見されたのだが、其れが本当に不思議な状態だったのだ。
頭部からは脳が綺麗に取り出され、がっぽりと空いた穴には銀杏が脳の代わりに入っていたのだ。其の後も同じ様な事件が起こり、事件は”脳華事件”と呼ばれた。
被害者の共通点というのは無く、無差別の犯行だとされているが犯人は未だ捕まっておらず、被害者は増えていく一方だった。
そんな中、先月発見された被害者は此の青年ー、水無月藤真の姉であった。姉を亡くしたと云うのに一向に進展しない事に痺れを切らした水無月は、とある人物の元へと向かっていた。
「此処かな…?」
位置情報を見ながら到着した此の建物には、水無月が会いたい人物が住んでいる。一階部分は車庫になっており、横にある古びた階段を上って行き中を覗き込むと、ソファーには雑誌を顔に乗せて横になる男が見えた。
「あの~…、すみません…。」
恐る恐る中に入り、ソファーの近くで声を掛けると男の身体が微かに動いたと思えば、顔に乗っていた雑誌を取っては起き上がった。露わになった顔は人形の様に整っており、瞳はアメジストの様な綺麗な色をしていた。
「申し訳ない。若しかして御依頼かな?」
二十代後半だろうか。
男は大きな欠伸をすると「どうぞ」と向かい側のソファーに水無月を座らせ、棚からグラスを取ると冷えた麦茶を注ぎ水無月の前に置いた。
「御依頼内容は。」
「先月殺害された被害者は僕の姉でして、頭部にはマリーゴールドの花が植えられてました。」
「其れで?」
「今判明しているのは、犯人が〈カーニヴァル〉と云う事だけー。警察が犯人を捕まえる迄待てません。だから貴方の能力で犯人を見付け出して欲しいんです。」
情報屋、伏見椿生の噂は聞いた事が有る。
其の噂は、伏見に不思議な能力が有ると云う話で、死者の声を聞く事が出来ると言うのだ。否定をしない様子を見るに、其の能力は実際に持っているのだろう。
「…そうだなぁ、能力について知っているのならば此の能力は”声”しか聞こえないと云う事も知っているだろう?犯人が誰なのか知る事の出来る能力じゃないのだよ。」
「判っています。ただ、貴方にしかもう頼れない。」
〈カーニヴァル〉と〈人間〉の違い何て無いに等しい。何故なら〈人間〉であっても極悪非道な犯罪を犯すからだ。内臓を取り出したり、首を切り落としたり何て頭のイカれた奴ならやるだろう。そんな中、〈カーニヴァル〉何て言葉を生み出したのは、ただそんな非道な事をする者が同族だと思いたく無いからだ。自分達〈人間〉はそんな犯罪を犯す事は無いと免罪符が欲しくなったのだ。
警察は捜査をしているが、犯人に行き着く事は無いかもしれない。少しも進展していないのだ。被害者の共通点は無く、防犯カメラを避けながら行われた犯罪で目撃情報も無い。
姉の真冬にも何かトラブルが有った訳でも無く、ストーカー被害等も一切無い。友人や知人からの聴取も恨まれる人間では無いと聞いた。水無月自身も真冬が誰かに恨まれる様な人間では無いと思っていた。
「貴方の能力で僅かな手掛かりでも見付かればと思うんです。」
「まぁ、君がそう決心したのならば協力しようじゃあないか。そうだな、今から発見現場へと向かおうじゃないか。」
「え、受けてくれるんですか?」
「勿論だよ。此の儘犯人を野放しには出来ないからね。」
断られると思っていたが、伏見は依頼を受けてくれるようでポケットからスマホを取り出すと何処かに連絡をしては麦茶を一気に飲み干した。
暫くすると外の階段を勢い良く駆け上がる足音がしたかと思えば、扉が乱暴に開かれた。
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