脳華事件

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 其の後、伏見が入浴している間に水無月は買う物をリストアップしていると、何処からか視線を感じ周囲を見渡すと、廊下への扉の前に少年が立っていた。不思議な事に其の少年の身体は透けており人間では無いと直ぐ理解した。 「君は…?」  水無月が声を掛けても少年から返事は無い。  ただ此方をじっと見詰めるだけで何も答えない少年に困っていると、少年は此方を指差しては姿を消した。何だったのかと不思議に思いつつ、テーブルに視線を戻すと其処には先程迄無かったシルバーのロケットペンダントが置かれていた。  手に取り中を見ると、幼い伏見と先程の少年が楽しそうに並ぶ写真が入っていた。ペンダントは錆びており年季が入っている。 「此れを僕に渡してくれたのか…?でも何で…。」  此のペンダントは伏見に渡せば良いのかと考えたが、直接伏見の前に出れば良い話だ。だが、水無月の前に現れたのは伏見には姿を現せない理由が有るのかもしれない。一応、あの写真と共に仕舞って置こうとポケットにペンダントを入れた。 「次入りな~…って、如何かした?」  風呂から上がった伏見が戻って来たのだが、様子の可笑しい水無月を見て不思議そうに首を傾げた。何でも無いと答えると居間から出て入浴をしに向かった。  入浴を終え居間へと戻ると、伏見はソファーに座り寝息を立てていたのに気づいた。髪を乾かしていないのにも関わらず寝るとは風邪を引いてしまうと思い乾かしていると、伏見は目を覚ました。 「おや、気持ちが良い風が来ると思ったら、乾かしてくれていたのか。有難う水無月君。」 「いえ。風邪を引いてしまうと大変ですから。」 「世話焼きだねぇ。」  手入れをしている様には思わないが髪はさらさらとしており艶が有る。ドライヤーの隣にはヘアオイルが置いて有ったが使った形跡は無かったが、買ったばかりだったのだろうか。 「此のヘアオイル使いましたけど大丈夫でした?」 「其れ友人が偶には使えって押し付けて来た奴なんだよね。水無月君も使って良いからね。」  伏見の名前に入っている椿のヘアオイルは綺麗なボトルに入っている。友人から押し付けられたと言ったが捨てないで置いておくとは。一緒に置いて有ったと云う事は使おうとは思っていたのだろう。  明日も忙しいと早めにベッドに入った水無月は、仰向けに横になると天井を眺めていた。両親からは心配の連絡も無い。始めからそんな事に期待等してないが。  此れから此処で暮す。  伏見の能力の代償を知り、なるべくならば能力を使わせたくない。だが、水無月がそう頼んだ所で意味も無いだろう。 「…如何したら良いんだろう…。」  あの様子では、此の儘使い続ければ近い未来に命尽きるだろう。他人の為に命を削り生きて行く伏見に何か出来る事は有るだろうか。出来る事は側に居て助手をして生活を支える他に無い。  出会ったばかりの自分が伏見の最期を看取る覚悟を決めているのも可笑しな話だが、知って仕舞えば放っておけない。伏見から離れて仕舞えば一生後悔を引き摺るに違いない。
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