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───男性、名前は新垣渉(あらがきわたる)。年齢は20歳。
時刻は昼、そこはとある住宅街の公園にある桜の木の下にあるベンチに座り、コンビニ弁当とペットボトルのお茶を膝に置いて食事をしていた。
「今日は野郎1人で花見、寂しいもんだな………」
割り箸をパキッと割り、弁当を食べる渉(わたる)。季節は春、桜が咲き誇る季節であり、出会いと別れの季節である。
自分の職業はとある会社の営業マン。外回りにて昼休憩をとっていた所だ。
「あの………すいません」
話しかけてきたのは美しい女性だった。
「えっ?自分ですか?」と、渉(わたる)は女性の問いかけにドキっとし、視線を移す。
黒髪のロングヘアーに垂れた瞳、メガネを着用している。容姿は20代、30手前になるのか、目元には泣きぼくろ。スタイルはスレンダーで魅力的な雰囲気を漂わせている。
「隣、良いですか?」
女性は尋ねる。
「ど………どうぞ」
渉(わたる)は横に席を譲る。
「失礼致します………」
女性はベンチに腰掛け、渉(わたる)の隣に座る。
「桜、キレイですね………」
「そ、そうですね」と、渉(わたる)は女性から漂ういい香りとにこやかな笑みに、頭をポリポットと掻き、緊張を張り詰めてしまう。
女性の衣類である白のロングシャツに青のスカート。女性は渉(わたる)の心の中に侵入するかのように横から上体を屈ませ、視線を向ける。
屈ませた体勢により、女性の大きな胸の谷間が渉(わたる)の視線を支配する。
「これ、受け取って下さい………」
女性は表情を赤くし、手紙を差し出す。
女性の言葉に、思わず「えっ?」と、渉(わたる)は驚いた表情で手紙を受け取り、震える手で手紙に視線を向ける。そして再び女性に視線を向ける………。
しかし、再び視線を戻したら女性はいなくなっていた。
───そして、昼休憩を終え、住宅街を歩いていた。
「何だったんだ?あの子は………」
渉(わたる)は住宅街を歩き、先程の女性を浮かび上がり、その魅力的な容姿を忘れられないでいた。特にあのメガネ越しからクスっと笑いかける包容力のある笑みとモデルのようなスタイルに、自身の気持ちを支配するには充分だった。
あれは告白の手紙、ポケットに入れた手紙を取り出し、開けようとする………一体、何が書かれているのだろう?と、気持ちをドキドキさせる。
すると、突き飛ばすような春の風が発生。手に持っていた手紙が手元を離れ、ヒラヒラと宙を舞うのである。
「あ、待ってくれっ!!」
渉(わたる)は宙に浮いた手紙を取ろうと手を伸ばし、走る。しかし、宙に浮いた手紙はあざ笑うかのようにヒラヒラと舞い、離れる。
───すると、自身の真後ろだった。鼓膜を破壊するような衝撃音が地面から、そして全身に響き渡る。
恐る恐る振り向くとそこに、車がコンクリートの壁を正面から突き破り、民家を破壊していた。
「嘘だろ?………」
思わず渉(わたる)は言葉を失い、全身に液体窒素を打ち込まれたように硬直する。何故なら歩いていて、車の走る音すらしなかったのだから。交通事故により、集まる人集り、救急車に警察のパトカーが駆け付け、自分も事情聴取等も受けた。
自分がもし、立ち止まって手紙を読んでいたら………と、思うと、震えが止まらない。
───そして、民家のコンクリート壁から渉(わたる)を覗き込むように、女性はあざ笑う。
「ふふ、悪運の強いひとね………」
女性は手紙をポイっと投げ捨てて立ち去る。空中をヒラヒラと舞う手紙にはwelcome.to.hell。と書かれ、ボッと青い炎を発し、消滅した。
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