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マスカレード
私の大好きな人は、ヴィジュアル系バンドのボーカリストです。
そんな私の夢のような、人によっては恐怖の様な体験を打ち明けます。
私の妄想だと思って貰っても構いません。
私自身、未だに現実だとは思えないからです。
始まりは、ラジオからでした。
彼の圧倒的な歌唱力と艶のある歌声に耳を奪われた私は、ネットを使い、その歌声の主を調べあげました。
既に有名なヴィジュアル系バンドのボーカリストであった彼のliveに足しげく通う様になるのは時間の問題でした。
メンバーの全員が、オペラ座の怪人かヴェネチアの仮面舞踏会の中世ヨーロッパの様な仮面で素顔を覆いながらも、そのミステリアスな美貌は隠しきれていませんでした。
特にボーカルの彼は別格で、整った鼻梁、男性なのに色っぽい目元、サラサラの黒髪、そして何と言っても艶っぽい歌声、圧倒的な歌唱力に私の心は奪われてしまいました。
寝ても覚めても、彼の事を想い、通勤中は彼らのバンドの音楽を繰り返し聴き、初めてライブハウスというもの行こうと思ったのは一世一代の決心でした。
『嘘でしょ・・・』
コンビニでライブのチケットを引き換えてきて、目を疑った。
それほど大きくはない会場ではあったけど、最前列のセンター、それはすなわちボーカルの彼の目の前の良番だった。
間近で彼の美貌を拝めるなんて、尊死してしまわないか、鼻血を出してしまわないか、そんな心配ばかりしながら、当日をむかえた。
それまでにも、新曲発売のイベントの握手会とかへ行って、お手紙を渡したり、ほんの10秒くらいのふれあいにも、ノックアウトされていたけど、やはり彼の最大の魅力は、ステージの上の、魔王の様な色気で、それにゾクゾクしている私にとっては、最高のご褒美だった。
live当日を指折り数えて、実際のliveで彼の熱い視線に心を撃ち抜かれ、痛いファンの勘違いでしかない、視線があったという、麻薬のような一時のために、liveに通う様になった私の元に、まだliveの興奮冷めやらぬ状態のところに宛先のない、私の名前だけが書かれた一抱え程の包みが、姉から渡されました。
『あんた宛に直接手渡しで、家の前で渡されたんだけど・・・』
仕事帰りの姉が、持ってきてくれた、その包みを開けてみると、中から出てきたのは、私の神バンドのトレードマークとも言うべき、マスクが出てきた。
それと共に今回のliveのパンフレット、勿論バンドのグッズは全て買っている私にとっては見たことのあるものだったが、違っていたのは、それに直筆のサインが書かれていた事だった。
驚きを隠せないでいる私に追い討ちをかけるように、私のスマホに非通知番号から着信があり、いつもなら、知らない番号からの電話には出ないが、その時は導かれる様にこれから始まる、歓喜と恐怖の時を予感したのか、恐る恐る電話に出ると
『もしもし、プレゼント受け取ってくれた?』悪戯っぽい、こちらの反応を楽しむ様子を隠そうともしない、間違えようのない美声が耳元で甘く囁いた。
『え・・・!?』絶句した私の反応をどこからか見ているかのように彼は言葉を紡ぐ『驚いた?いつも応援ありがとう』眩暈を起こして倒れそうになるのを必死でこらえていると、彼は一方的に話を続ける。『またこちらから連絡するね』そういって、通話は終わった。
何が起こったのかにわかには信じられない状況に急いで家の外に出て、この荷物を持ってきた人物の姿を探す。日付を越えるくらいの住宅街は静まり返っていて、誰かがいた形跡は見つけ出せなかった。
自分が追っかけている側だと思っていたのに、ストーカーじみた彼の行動は、ファンである私にとっては、なんとも言えないモヤモヤが残った。あちらは、こちらの全てを知っているのに、こちらは彼の住んでいる所も電話番号も知らない。お手上げ状態だった。こちらは、彼からの連絡を待つしか無かった。
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