伸明 1

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 目が覚めたのは、それから、かなりの時間が経ってからだった…  気が付くと、私は、ベッドに横たわったままだった…  私は、独りぼっち…  周囲には、誰もいなかった…  それから、すぐに、自分の置かれた状況を思い出した…  長谷川センセイに、言われ、伸明に、会いに来たことを、思い出した…  それを、思い出すと、私は、慌てて、ベッドから、飛び起きた…  むろん、飛び起きるというのは、おおげさな表現… 急いで、ベッドから降りたというのが、正しい…  途端に、少し、フラフラしたが、問題は、ない…  それから、窓に目をやると、辺りは、まだ暗くなってなかった…  だから、まだ、それほど、時間が経ってないことが、わかった…  自宅では、この五井記念病院から、帰ってきて、ベッドに横になった途端、寝込んでしまい、起きたら、夜になっていたことがあった(苦笑)…  だから、それを、思えば、今日は、まだ、マシ…  辺りは、まだ暗くなっていないからだ…  まだ、昼間のままだからだ…  だから、マシだった(苦笑)…  そして、私は、ベッドから起き上がると、真っ先に、伸明の姿を探した…  当然、同じ部屋にいると、思っているからだ…  なにしろ、この病室は、伸明が、隠れ場所に使っている場所…  今のオーナーというか、部屋の主は、伸明だからだ…  だから、すぐに、伸明を探した…  長谷川センセイでは、ない…  伸明を探した…  私が眠って、すでに何時間も経っている…  だから、当たり前だが、長谷川センセイは、すでにいないと、思っているからだ…  伸明の元には、いない…  すでに、この部屋を去ったと、思ったからだ…  私は、急いで、部屋の中を探したが、伸明は、いなかった…  影も形もなかった…  だから、混乱した…  一瞬だが、混乱した…  まるで、夢?  白昼夢を見ているようだった…  なぜなら、さっきまで、たしかに、ここにいた、伸明も、長谷川センセイも、いたからだ…  それが、二人とも、いない…  だから、まるで、夢を見ているようだった…  いや、  夢ではない…  周囲を見て、そう、思った…  たしかに、ここは、五井記念病院の一室…  病室だ…  部屋を見れば、わかる…  だから、夢ではない…  ただ、伸明と、長谷川センセイの姿がないだけ…  ただ、それだけだ…  私は、思った…  私は、考えた…  が、  途方に暮れた…  この病室に、一人だけ、取り残されて、途方に暮れた…  私は、ここで、なにをすれば、いいのか、わからない…  だから、途方に暮れた…  そして、考えた…  私にできること…  このまま、伸明が、戻ってくるまで、待つか?  それとも、ここから帰るか?  その二択…  その二択しかない…  だったら、どうする?  帰る?  帰らない?  それを悩んだ…  どっちにすれば、いいのか?  悩んだ…  そして、どっちにすれば、いいのか、悩んでいると、  「…寿さん?…」  と、いう声が聞こえた…  私は、慌てて、声のする方を振り返った…  と、そこには、マミさんの姿があった…  伸明の義理の妹のマミさんの姿があった…  「…やっぱり、来たのね…」  マミさんが、告げる…  その口調は、諦めというか…  いや、  諦めではない…  やっぱりというのは、ずばり予想通りということ…  「…来ては、ダメ!…」  「…これ以上、五井と関わってはダメ!…」  「…寿さんが不幸になる…」  と、以前、マミさんは、私に警告した…  その警告を無視して、やって来た…  その 「…やっぱり…」 だった…  私は、マミさんに、そう言われると、なんと、答えていいか、わからなかった…  だから、黙った…  すぐには、答えなかった…  いや、  答えられなかったと、いってもよい…  ただ、黙って、マミさんを見た…  マミさんも、私を見た…  互いに、無言で、見つめ合った…  それは、まるで、恋人同士?  いや、  宿敵同士?  いや、  それとも、違う…  ただ、互いに、いたたまれなかった…  一方は、警告をし、もう一方は、警告を無視した者…  そんな関係が、嫌だった…  だから、互いに、無言で、見つめ合った…  長い沈黙の時間だった…  が、  さすがに、いつまでも、互いに無言のままでは、いられない…  マミさんが、再び、口を開いた…  が、  なにを言っているのか、わからない…  そして、私もまたマミさんに、呼応するように、なにか、言った…  が、  自分でも、なにを、言っているのか、わからなかった…  こんなバカなと、思った…  自分で、自分が、なにを言っているのか?  わからないなんて…  そんなバカな話は、ない…  私は、混乱した…  文字通り、混乱した…  頭が、おかしくなった…  …なにか、変!…  …なにか、おかしい!…  …絶対、おかしい!…  私は、心の中で、思った…  心の中で、叫んだ…  が、  そこまで…  そこまでだった…  途端に目が覚めた…  目が覚めると、目の前に伸明の顔があった…  実に、心配そうに、私を見ている伸明の顔があった…  …夢?…  …今のは、夢だった?…  と、気付いた…  そして、目の前の伸明を見た…  私を心配そうに、見ている伸明を見た…  が、  なんて、言葉をかけて、いいのか、わからなかった…  これまで、こんなシチュエーションはなかった…  それが、大きい…  だから、なんと、言っていいか、わからなかった…  そして、それは、伸明も同じだったようだ…  ジッと、私を見るだけで、なんとも、言わなかった…  言葉が、見つからない様子だった…  だから、私から、言った…  「…スイマセン…」  と、言った…  そうすれば、伸明も、反応する…  なにか、言うと、思ったからだ…  案の定、伸明は、  「…寿さんが、謝ることじゃない…」  と、言った…  「…むしろ、体調が、悪いにも、かかわらず、無理をさせて、すみませんでした…」  と、私に詫びた…  これでは、私は、どうして、いいか、わかなかった…  なんと、返答して、いいか、わからなかった…  私は、今、本来、伸明が寝る、であろうベッドに寝ている…  いわば、伸明のものを、勝手に使っているのだ…  本来、ここに寝るべきは、伸明にも、かかわらず、だ…  にも、かかわらず、伸明のこの対応…  ひとが、良すぎるというか…  まさに、お坊ちゃま…  生粋のお坊ちゃまだった…  だから、それを、思うと、思わず、  「…プッ!…」  と、吹き出した…  笑うところではないにも、かかわらず、つい、  「…プッ!…」  と、吹き出してしまった…  「…なにが、おかしいんですか?…」  と、伸明が、不思議そうに、聞く…  「…だって、伸明さん…ここは、伸明さんの、病室ですよ…だから、ここに、寝るのは、伸明さんのはず…それを、私が、使っているにもかかわらず、スイマセンと、謝るなんて…」  私が、笑って言うと、  「…たしかに、その通りかも、しれない…」  と、伸明が、苦笑する…  「…でしょ?…」  私は、言って、ベッドから、カラダを起こした…  と、  そのときに、危うく、伸明と顔がぶつかりそうに、なった…  これは、想定外…  実に、想定外だった…  互いに、紙一重の差で、ぶつかるのを、避けた…  それから、互いに、  「…スイマセン…」  と、詫びた…  小さな声で、詫びた…  詫びながらも、伸明と、こんな近い距離で、顔を合わせたのは、以前、伸明とキスをした以来だと、思った…  以前、伸明とキスをしたのは、亡くなった建造の墓の前…  前五井家当主、建造の墓の前だった…  なぜ、墓の前で、伸明と、私が、キスをしたか?  それは、伸明が、建造に、報告したかったからだ…  私、寿綾乃と、キスをしているところを、亡くなった建造に見せたかったからだ…  伸明は、建造を好いていた…  伸明は、建造に、感謝していた…  建造と、血が繋がってないにも、かかわらず、自分を次期当主に推してくれる建造に、心の底から、感謝していた…  そして、そのときは、気付かなかったが、きっと、あのとき、伸明は、私、寿綾乃を、建造の娘だと、思っていたに違いない…  本物の寿綾乃は、建造の娘…  建造の血が繋がった実の娘だった…  本物の寿綾乃の母である、私の叔母が、建造と、熱愛していたのだ…  だから、伸明は、私を建造の娘だと、信じていた…  それゆえ、あのとき、建造の墓の前で、私とキスをしたのは、建造に、娘の寿綾乃は、自分が、しっかりと、護るとでも、言いたかったのだ…  自分が、建造の娘と、結婚することを、報告したかったのだ…  そんなことに、今さらながら、気付いた…  あのとき、伸明が、なにを、考えていたのか、今さらながら、気付いた…  そして、そんなことに、気付くとは、我ながら、バカ…  救いようのない、バカだと、気付いた(苦笑)…                <続く>
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