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目が覚めたのは、それから、かなりの時間が経ってからだった…
気が付くと、私は、ベッドに横たわったままだった…
私は、独りぼっち…
周囲には、誰もいなかった…
それから、すぐに、自分の置かれた状況を思い出した…
長谷川センセイに、言われ、伸明に、会いに来たことを、思い出した…
それを、思い出すと、私は、慌てて、ベッドから、飛び起きた…
むろん、飛び起きるというのは、おおげさな表現…
急いで、ベッドから降りたというのが、正しい…
途端に、少し、フラフラしたが、問題は、ない…
それから、窓に目をやると、辺りは、まだ暗くなってなかった…
だから、まだ、それほど、時間が経ってないことが、わかった…
自宅では、この五井記念病院から、帰ってきて、ベッドに横になった途端、寝込んでしまい、起きたら、夜になっていたことがあった(苦笑)…
だから、それを、思えば、今日は、まだ、マシ…
辺りは、まだ暗くなっていないからだ…
まだ、昼間のままだからだ…
だから、マシだった(苦笑)…
そして、私は、ベッドから起き上がると、真っ先に、伸明の姿を探した…
当然、同じ部屋にいると、思っているからだ…
なにしろ、この病室は、伸明が、隠れ場所に使っている場所…
今のオーナーというか、部屋の主は、伸明だからだ…
だから、すぐに、伸明を探した…
長谷川センセイでは、ない…
伸明を探した…
私が眠って、すでに何時間も経っている…
だから、当たり前だが、長谷川センセイは、すでにいないと、思っているからだ…
伸明の元には、いない…
すでに、この部屋を去ったと、思ったからだ…
私は、急いで、部屋の中を探したが、伸明は、いなかった…
影も形もなかった…
だから、混乱した…
一瞬だが、混乱した…
まるで、夢?
白昼夢を見ているようだった…
なぜなら、さっきまで、たしかに、ここにいた、伸明も、長谷川センセイも、いたからだ…
それが、二人とも、いない…
だから、まるで、夢を見ているようだった…
いや、
夢ではない…
周囲を見て、そう、思った…
たしかに、ここは、五井記念病院の一室…
病室だ…
部屋を見れば、わかる…
だから、夢ではない…
ただ、伸明と、長谷川センセイの姿がないだけ…
ただ、それだけだ…
私は、思った…
私は、考えた…
が、
途方に暮れた…
この病室に、一人だけ、取り残されて、途方に暮れた…
私は、ここで、なにをすれば、いいのか、わからない…
だから、途方に暮れた…
そして、考えた…
私にできること…
このまま、伸明が、戻ってくるまで、待つか?
それとも、ここから帰るか?
その二択…
その二択しかない…
だったら、どうする?
帰る?
帰らない?
それを悩んだ…
どっちにすれば、いいのか?
悩んだ…
そして、どっちにすれば、いいのか、悩んでいると、
「…寿さん?…」
と、いう声が聞こえた…
私は、慌てて、声のする方を振り返った…
と、そこには、マミさんの姿があった…
伸明の義理の妹のマミさんの姿があった…
「…やっぱり、来たのね…」
マミさんが、告げる…
その口調は、諦めというか…
いや、
諦めではない…
やっぱりというのは、ずばり予想通りということ…
「…来ては、ダメ!…」
「…これ以上、五井と関わってはダメ!…」
「…寿さんが不幸になる…」
と、以前、マミさんは、私に警告した…
その警告を無視して、やって来た…
その
「…やっぱり…」
だった…
私は、マミさんに、そう言われると、なんと、答えていいか、わからなかった…
だから、黙った…
すぐには、答えなかった…
いや、
答えられなかったと、いってもよい…
ただ、黙って、マミさんを見た…
マミさんも、私を見た…
互いに、無言で、見つめ合った…
それは、まるで、恋人同士?
いや、
宿敵同士?
いや、
それとも、違う…
ただ、互いに、いたたまれなかった…
一方は、警告をし、もう一方は、警告を無視した者…
そんな関係が、嫌だった…
だから、互いに、無言で、見つめ合った…
長い沈黙の時間だった…
が、
さすがに、いつまでも、互いに無言のままでは、いられない…
マミさんが、再び、口を開いた…
が、
なにを言っているのか、わからない…
そして、私もまたマミさんに、呼応するように、なにか、言った…
が、
自分でも、なにを、言っているのか、わからなかった…
こんなバカなと、思った…
自分で、自分が、なにを言っているのか?
わからないなんて…
そんなバカな話は、ない…
私は、混乱した…
文字通り、混乱した…
頭が、おかしくなった…
…なにか、変!…
…なにか、おかしい!…
…絶対、おかしい!…
私は、心の中で、思った…
心の中で、叫んだ…
が、
そこまで…
そこまでだった…
途端に目が覚めた…
目が覚めると、目の前に伸明の顔があった…
実に、心配そうに、私を見ている伸明の顔があった…
…夢?…
…今のは、夢だった?…
と、気付いた…
そして、目の前の伸明を見た…
私を心配そうに、見ている伸明を見た…
が、
なんて、言葉をかけて、いいのか、わからなかった…
これまで、こんなシチュエーションはなかった…
それが、大きい…
だから、なんと、言っていいか、わからなかった…
そして、それは、伸明も同じだったようだ…
ジッと、私を見るだけで、なんとも、言わなかった…
言葉が、見つからない様子だった…
だから、私から、言った…
「…スイマセン…」
と、言った…
そうすれば、伸明も、反応する…
なにか、言うと、思ったからだ…
案の定、伸明は、
「…寿さんが、謝ることじゃない…」
と、言った…
「…むしろ、体調が、悪いにも、かかわらず、無理をさせて、すみませんでした…」
と、私に詫びた…
これでは、私は、どうして、いいか、わかなかった…
なんと、返答して、いいか、わからなかった…
私は、今、本来、伸明が寝る、であろうベッドに寝ている…
いわば、伸明のものを、勝手に使っているのだ…
本来、ここに寝るべきは、伸明にも、かかわらず、だ…
にも、かかわらず、伸明のこの対応…
ひとが、良すぎるというか…
まさに、お坊ちゃま…
生粋のお坊ちゃまだった…
だから、それを、思うと、思わず、
「…プッ!…」
と、吹き出した…
笑うところではないにも、かかわらず、つい、
「…プッ!…」
と、吹き出してしまった…
「…なにが、おかしいんですか?…」
と、伸明が、不思議そうに、聞く…
「…だって、伸明さん…ここは、伸明さんの、病室ですよ…だから、ここに、寝るのは、伸明さんのはず…それを、私が、使っているにもかかわらず、スイマセンと、謝るなんて…」
私が、笑って言うと、
「…たしかに、その通りかも、しれない…」
と、伸明が、苦笑する…
「…でしょ?…」
私は、言って、ベッドから、カラダを起こした…
と、
そのときに、危うく、伸明と顔がぶつかりそうに、なった…
これは、想定外…
実に、想定外だった…
互いに、紙一重の差で、ぶつかるのを、避けた…
それから、互いに、
「…スイマセン…」
と、詫びた…
小さな声で、詫びた…
詫びながらも、伸明と、こんな近い距離で、顔を合わせたのは、以前、伸明とキスをした以来だと、思った…
以前、伸明とキスをしたのは、亡くなった建造の墓の前…
前五井家当主、建造の墓の前だった…
なぜ、墓の前で、伸明と、私が、キスをしたか?
それは、伸明が、建造に、報告したかったからだ…
私、寿綾乃と、キスをしているところを、亡くなった建造に見せたかったからだ…
伸明は、建造を好いていた…
伸明は、建造に、感謝していた…
建造と、血が繋がってないにも、かかわらず、自分を次期当主に推してくれる建造に、心の底から、感謝していた…
そして、そのときは、気付かなかったが、きっと、あのとき、伸明は、私、寿綾乃を、建造の娘だと、思っていたに違いない…
本物の寿綾乃は、建造の娘…
建造の血が繋がった実の娘だった…
本物の寿綾乃の母である、私の叔母が、建造と、熱愛していたのだ…
だから、伸明は、私を建造の娘だと、信じていた…
それゆえ、あのとき、建造の墓の前で、私とキスをしたのは、建造に、娘の寿綾乃は、自分が、しっかりと、護るとでも、言いたかったのだ…
自分が、建造の娘と、結婚することを、報告したかったのだ…
そんなことに、今さらながら、気付いた…
あのとき、伸明が、なにを、考えていたのか、今さらながら、気付いた…
そして、そんなことに、気付くとは、我ながら、バカ…
救いようのない、バカだと、気付いた(苦笑)…
<続く>
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