2. ゲンカン、ゴードン王国の主都へ着く

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2. ゲンカン、ゴードン王国の主都へ着く

ゴードン王国の主都にたどり着いたゲンカンがどこか眠る場所がないかと歩いていたら、大きな建物の前に出た。そこが王宮というところのようだ。  そのいかめしい門の前には、自分と似たような人達が群れていたからほっとした。今夜はここで休もう。     そこには20人ほどの浮浪者がいて、立派な馬車がはいってくるたびに、お金や食べものをせがんでいた。これだ、と真似をしてみたが、そばから見るほど簡単なものではない。コツがもうひとつわからず、何ももらえなかった。何事にも、経験が必要なのだ。  あたりが暗くなると、人数はだんだんと減り、ゲンカンは心細くなった。でも、むしろをかぶった男がふたりの乞食が残っていたからふたりに習って、その横に座って、もってきた織物をかぶった。  夜が更けると、年寄りの門番がやってきて足でむしろを揺らして、ふたりに食べ物を与えた。ふたりはここの常連のようで、慣れた手つきで受け取って、むしろをひきずりながら去って行った。  頼りにしていた乞食のふたりが去ったので、ゲンカンは途方に暮れた。真夜中に、急に予想外の行動はしないでほしい。といっても今からでは行くところがないので、織物に包まって顔を隠していた。  門番が織物をめくった。 「こらっ、おまえも帰れ」    ゲンカンの顔を見てちょっと首をかしげた。 「ちえっ、子供か。おまえ、男か」 「子供ではない。男に決まってる。どしてだ?」 「おまえ、西から来たのか?」 「いや、東だ」 「おまえは西の顔をしている」  ゲンカンは村で何度かそんなことを言われたことがあった。周囲の人々はみんな黒い髪、黒い瞳で、東洋の顔をしていたので、自分もそうかと思っていたけれど、ある時、鏡を見て驚いたことがある。  でも、ゲンカンは捨てられていたのだから、両親が誰なのか、まったくわからない。 「早く帰れ」 「帰りたいけど、帰るところがないんじゃ」 「おまえは言葉も変だ」 「これでもよくなったんだけど、緊張すると、うまく話せないんじゃ」 「おまえ、わしに緊張しているのか」 「はい」 「ここにいられては困る。これから王子殿下が外出なさる」 「こんな夜更けに、どこへ行くんだ」 「そんなこと、おまえの知ったことではない」  ゲンカンは門番のズボンの膝が破れているのに気がついた。 「そこ、破れている。それ、直してやるが」 「さっき、ひっかけてしまった。おまえ、直せるのか」 「針と糸はもっているから、直せるさ」 「じゃ、頼もうか。朝礼で検査があるから、困ったと思っていたんだ。ここではまずいから、門番小屋の中でやれ」  玄関はズボンのほかにも、上着の直しをしてやった。門番はマルキという名前のおじさんで、ゲンカンにまんじゅうとあたたかい茶をくれた。茶は薄かったが、あたたかい飲み物は久ぶりで特別にうまかったから感動して、目が大きくなった。 「そんなにうまいのか」 「はい」 「よっぽどひもじい思いをしたんだな」 「はい」 「男なのに、裁縫がうまいな」 「裁縫工房の親方はたいてい男じゃろうが」 「そう言えばそうか」  マルキおじさんはすぐに納得した。人がよいおじさんだ。 「おまえは、楽しそうにやっていた。縫うのが好きなのか」 「はい。手を動かすのが好きだ」 「ここで、なんかおれにできる仕事はないじゃろうか」 「裁縫したり刺繍をしたりする部はあるが、そこは若い女子ばかりだ」 「そこでもいい」 「向こうが断る」 「どんな仕事でも、するんじゃが」 「そんなに仕事がほしいのか」 「はいっ」 「おまえ、返事だけはいいな」 「はい」 「汚いとこの掃除でもいいのか」 「はい」 「じゃ、今夜はここにいて、朝になったら、厩舎に行ってみろ。あるかもしれん」 「厩舎(きゅうしゃ)って、なんじゃ」 「馬小屋だ。おまえは厩舎も知らないのか」 「学がないんじゃ」 「そうか。わしもない」 「でも、厩舎は知ってたから、えらいさ」 「朝になったら、あっちの裏門からはいって、厩舎に行ってみろ。今日ふたりが、解雇された」 「解雇って、なんだ?」 「首を切られたってことだ」 「こわいところだな」  ゲンカンは斬首されたのかと思い、首をさすった。 「どうして、首を切られたんだ」 「あそこの厩舎は第三王子のもので、王子は気むずかしいお方なのだ。すぐにかっかする。そんな場所でも、いいか」 「そこしかないなら、仕方がない。食べ物がなくて死ぬのと、首を切られて死ぬのと、どっちがましじゃろうか」 「おまえはおもしろいのう」 「おれは、真剣だ」 「よし。友達に口をきいておいてやるから、明日、行ってみろ」 「はい」  恐ろしいのは山々なのだが、どうしても仕事がほしかったので、ゲンカンは翌朝、その厩舎とやらに行ってみようと思った。
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