四章 女神の島 22. 女神が決めた恋のルール

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四章 女神の島 22. 女神が決めた恋のルール

           女神アテナはアテナイをはじめ、多くの土地を統治しているけれど、国同士の戦いが次から次へと起こり、戦争に明け暮れて、休まる時がなかった。  ある時、処女神アテナがこの西の孤島を見つけた。その村の島民は漁をして、細々と暮らしていたけれど、女神が良質のオリーブの木や赤いベリーを植えさせて、豊かな島に育てたのだ。  女神アテナの父親はゼウス、母親は知恵の女神メティスで、ゼウスがヘラと結婚する前の話である。  ゼウスは最高神なのだが、メティスから生まれる子供が全世界の支配者になると予言され、それを恐れて妊娠しているメティスを飲み込んでしまった。    胎児アテナはゼウスの頭の中で育ち、やがて父親の頭をかち割って生まれてきたのだ。頭から出てきた時にはすでに武装し、槍を手にもっていた。  女神アテナはとても美しく、勇敢、プライドの高い「戦いの女神」で、男が大嫌いだった。     オリーブの島の民は従順な性格である。女神アテナは自分を慕う者には、かぎりない愛情を注ぐのだ。アテナは戦いの間に、この島に来て憩うのをとても楽しみにしていた。    ただこの島はひとつ問題があった。  島は西のあたたかい所にあり、オリーブもたくさん実るようになったから、人々はあまり働かなくても生活できるのだ。  そのせいか子供が早熟で、10歳を越えたばかりでも妊娠してしまったりした。子供が子供を産むようなケースが多く、母親になっても赤ん坊に興味がなかったり、育て方を知らなかったりで、あっさりと子供を捨てて、どこかへ行ってしまったりするのだった。  だから、この島には孤児が多かった。  ジャミル、サナシス、ハミルが孤児になったのも、そういう理由からである。  現状もそうだが、孤児は早熟の遺伝子をもっているので、女神アテナは将来を案じていた。  そして、「恋」というものを禁止したらよいではないかと思ったのだ。  恋を禁止すれば、子供ができない。  しかしいつまでも禁止しては人口が減ってしまうので、男子は「17」、女子は「14」になるまでは、「恋」について知ってはいけないというルールを作った。  つまり、ここは「恋」が禁じられた島になった。  恋を知らない女神が頭で考えた妙案、いや迷案なのだった。    自己主張をあまりしない島の人々たちはルールに従順で、子供の前ではキスもハグもしないし、「恋」についても一切語らなくなった。だから、島の子供達は「恋」については何も知らなかった。  でも、恋について知らなくても、身体は成長していくので、間違いは起きた。       女神アテナはルールに違反している子供達を見つけたら逮捕させた。見つけるのはスパイ・フクロウの役目である。  現場をとらえられ裁判にかけられて有罪になった子供たちは。フクロウに姿を変えられて、風紀スパイになるのだった。  風紀スパイになったフクロウは、反モラルな現場を2件抑えると、また人間に戻ることができた                         ☆     ハミルは島の風紀ルールのことを玄関に説明した。 「島の子は、男子は17歳、女子は14歳になるまで恋をしてはいけないんだね」  玄関が聞いたことを繰り返した。 「そうだよ」 「ハミルはいくつ」 「16」 「わたしはもう14になったから、島に帰っても、恋ができる」 「ぼくももう少しで17だよ」    その時、ハミルが、ちょっと首をかしげて耳を澄ました。 「ルシアン、そこにいるのかい」  しかし、蝋燭のじりじり燃える音が聞こえるだけで、何の返事はなかった。
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