24. ビオン先輩のアドバイス

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24. ビオン先輩のアドバイス

   オリーブの島では、4人はとても仲がよく、兄妹のようにして育った。  山羊飼いのジャミル、羊飼いのエヴァンネリ、漁師のサナシス、そしてハミルは葦笛が得意で、女神アテナが島に来ている時には神殿に呼ばれて笛を吹いた。  女神はハミルの笛がお気にいりで、島の宮殿で雇っただけではなく、時にはアテナの金の馬車に同乗させて、アテナイの神殿まで連れていったりもした。  今、ハミルは14年前のあの日を思い出していた。    その日も4人で海岸に集まるはずだったが、エヴァンネリの羊が出産をするというので参加することができず、男子が3人だけがやって来た。    少年たちは海の見える丘の石壁に腰かけ、オリーブの種を飛ばしていた。いつもはジャミルが一番遠くまで飛ばせるのに、その日は元気がなくて種が途中で落ちた。 「ジャミルは、今日、調子が悪いね。エヴァが来ないからかい」  とハミルが言った。 「エヴァは仕事だから、仕方がないよ。ただ、最近、よくわかんないけど、身体が熱くて、眠れないことが多いんだよ」  とジャミルがこぼした。 「あっ、おれも、おなじだ」  とサナシスが言った。 「時々、心臓がばくばくして、息ができなくなる」 「ぼくも、そうだよ。急に悲しくなったり、胸が痛くなったりする」  とハミルが言った。  3人は症状が似ているから、何かの伝染病なのだろうかと話し合った。医者に行くのはいやだし、高い。  エヴァンネリは4人の中で一番年下でも、一番頭がよいので、訊いてみようかという案もでたけれど、なぜか恥ずかしい気がした。 風邪と同じで、そのうちになんとかなるんじゃないか、なんて言いながら、自棄のようにオリーブの種を飛ばし続けていた。  その時、むこうの道から船乗りのビオンが歩いてくるのが見えた。大きなマドロスバックを肩にかけて、うれしくてたまらないといった表情で、がっしりした肩を揺らして歩いていた。  ビオンは孤児たちの兄貴的存在だった。噂では母親は12歳で風紀ルールを犯したから、フクロウにされてしまったのだと大人が言っていた。 「ビオンせんぱーい」  3人は名前を呼びながら、丘を駆け下りて行った。 「ビオン先輩、すごく元気そうですね」 「これから大きな島のハニアという港町に行って、おれ、結婚するんだ」 「結婚ですかぁ」 「相手は超セクシーで、美人なんだ」  3人は「すごいなぁ」、「やったなぁ」と羨ましがった。 「ところで、お前たちはしけた顔してるな」  ビオン先輩がそう言って、3人の頬を軽く叩いたりつねったりした。 「それが・・・・」 「おれはおまえらの兄貴だ。おれに相談できるのも、これが最後だぞ。何でも言ってみろ」 「は、はい」  3人は最近体調がどうもよくないのだと口々に訴えた。   「ああ、それは病気だ」  とビオンが言ったから、3人はどきっとした。 「治りますか」 「治るさ。その病気なら」 「大丈夫なんですか。何の病気ですか」 「それは恋の病気というやつだ」  先輩が胸を反らしておかしそうに笑った。 「恋」というものは禁止されているのに、そういう病気にかかってしまったのか3人は怯えた。 「そんなもの、簡単に治るから心配するな」  ビオンが指をぱちんと鳴らした。 「この苦しいのが、簡単に治るんですか」  少年たちは驚いた。 「そうさ」 「先輩、どうすれば治るのか、教えてください」 「よしよし、おまえたちだからな、特別に教えてやろう。それには、3つの方法があってな」  少年たちは先輩の顔を食い入るように見つめた。 「おれも物知りの先輩に聞いたんだが、なんでもギリシャのロングスとかという偉い人が書いた本の中に、その解決法がばっちり書いてあるそうなんだ」 「その人は医者ですか」   とジャミルが訊いた。 「そこのとこはわからんが、とにかく偉い人だ。おれも実は長いこともんもんと苦しんでいたんだ。けどな、船乗りの先輩に教えてもらってその方法を使ってみたら、とたんに悩みが、この空みたいにぱっと晴れて、幸せになってさ、美人と結婚することになったってわけだ」 「すごい。ビオン先輩、その方法を教えてください」  3人の少年は、先輩の太い褐色の腕にすがるようにして懇願した。 「おまえらはかわいい後輩だからな。島の置き土産に、特別に教えてやろう」
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