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31. 少年たちの裁判の記録(2)
ジャミルの裁判では、白いフクロウは検察側の質問に対して、よどみなく、調書と同じことを答えた。
白いフクロウには裁判には経験があるようで、自信に満ちた態度で、検査側の証人としては満点である。
エヴァンネリが尋問をする番になった。みんなの目が、彼女に集中した。
彼女はすっと立ち上がり、心配そうにしているジャミルをそっと見てから、静かに口をひらいた。
「寝台が壊れていたと言いましたが、翌日、警察が行った時には寝台は壊れていなかったと記載されています。証人はその目で寝台が崩壊しているところを見ましたか」
「音は聞こえましたが、おれはフクロウなので、家の中にははいれませんから、見てはいません。ベッドが直っていたって当然ですよ、直さないと、夜に眠れませんから」
「証人は訊かれた質問にだけ答えてください。では、もう一度訊きます。私の依頼人が飛び出してきて時、家の寝台が崩壊しているところを見ましたか」
「いいえ」
「あなたは少年とスピロナがつるんでいたと証言していますが、その現場を見たのですか」
「寝台がきしむ音が聞こえたので、そう思いました」
「質問にだけ、答えてください。見たわけではないのですね」
「見てはいません。でも、その音で何かわかります」
「なぜわかるのですか」
「おれは経験があるから、わかります」
「何の経験なのかはさておいて、では、あなたが被告人を見た時のことを話してください」
「少年が上半身裸で、こんなふうに片手でシャツをもって、玄関から飛び出してきました。彼の唇は切れていて、血が流れていて、血は頬や顎にもついていました」
「ところで、スピロナさんの家の裏山には何がありますか」
「ベリーの木があります」
「ベリーは何色ですか」
「赤です」
「少年が食べていたのがベリーのパイで、それが唇についていたとは考えられませんか」
「まさか。それはないと思います」
「その可能性はどうですか」
「そんなことは、知るか」
「被告席の唇を見てください。切れていますか」
「もう2週間以上たっていますから、治って当然です」
「質問にだけ答えてください。切れていますか」
「今は切れてはいませんが、あの時は切れていました」
「どうしてわかるのですか」
「フクロウの目は人間の100倍も見えるのですから、そんなことくらいわかりますよ」
「フクロウさんがよく見えることはよく知られていますが、色彩判断力はどうですか」
フクロウの大きな瞳がちょっと動揺した。
「おれは長いことフクロウをやっているので、人間の時より、色がどのくらいはっきり見えるとか見えないとか、そういうことは忘れました。でも、色彩の区別はよくできると思います」
「家の中には、テーブルと椅子がありましたよね。被告人がシャツにお菓子を落としてしまい立ち上がった時、椅子やテーブルを倒してしまったとは考えられませんか」
「ガタンではなくて、ドドーンというものすごい音ですから、寝台だと思います」
「あなたはこれまでにも、寝台が壊れた音を聞いた経験がありますか」
「それはないですけど、わかります」
「あなたはフクロウになってから、何年ですか」
「10年です」
「長いですね。これまで、あなたはいくつの風紀違反の現場を見つけましたか」
「ひとつです」
「1か月前に、ひとつですね。裁判に勝ったのはひとつですが、これまで何件の逮捕をしましか」
「それは、・・・6いや7件です」
傍聴席からおおっという声。
「つまり、多くの誤認逮捕をしているということになります。それが1か月前に1件勝ち取ったのですね」
「そうだ」
「あなたが風紀ルールを犯したのは10年前、17歳の少し前ですよね。最近になって、逮捕のやり方がわかったとか、そういうことはありませんか」
「今回の件は偶然だ。音が聞こえたから飛んで行ったんだ」
「被告人に、ガールのフレンドがいるらしいと目をつけてはいませんでしたか」
「どのフクロウだって、ガールのフレンドがいる少年を狙っていますよ。だからといって、おれがこの山羊飼いの少年を狙っていたというわけではないさ」
「そう願います。でも、どうして、この少年が山羊飼いだと知っているのですか」
「そりゃ、狭い島だから、誰でも知っているさ」
「あなたは被告人がよく川で水浴びをするのを知っていて、そのことをスピロナさんに言いませんでしたか」
「覚えていない。スピロナに訊けばいいでしょう」
「この被告人をよく見てください。このやさしくて善良そうな少年が女性を殴ったり、寝台の上で暴れたりするでしょうか」
「オブジェクション」
異議ありと検事側。
「弁護人は証人を誘導しています。見かけで人が判断できたら、誰も苦労はしません」
「異議を認めます」
と裁判長。
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