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32. 少年たちの裁判の記録(3)
ジャミルの裁判は休憩をはさんで続けられた。
この事件は島中を騒がせ、傍聴席は限られていたからにはくじ引きが必要なほどだったし、ニュース記者も多数集まっていた。
大方の見解では、ここまでの裁判では検察側が優勢だった。白フクロウは答え方を知っている。
さて、エヴァンネリはここからどう戦うのだろうか。巻き返せるのだろうか。島人は祈る思いで手を握り、法廷はひりひりするほどの緊張感に包まれていた。
「では、ひとつ実験をしたいと思いますので、フクロウさんは後ろを向いてください」
エヴァンネリがそう言って、箱を運んできた。
「オブジェクション」
異議ありと検事。
「弁護人は本件には関係のない茶番劇をしようとしています」
「ここは大事なところです。フクロウさんの色彩判断力がどのくらいあるのかの実験です。血とベリーの赤を見分けられるのかどうかの実験です」
「オーバールール。異議を却下します。弁護人は続けなさい」
と裁判長。
フクロウは首を270度回転できのるで、座ったまま顔を後ろに向けて、神経を集中させた。何をするつもりなのか。
紐を解いて、壺の包みをあけるがさがさという音がした。
次につぼの蓋をあけるような音。
うーん、と傍聴席から鼻から息を吸い込んでいるような音がした。ジャムから、甘い匂いが流れているらしい。
法廷には物音がしなくなり、ピーンと緊迫した空気が流れている。
「用意が整いました。フクロウさん、こちらを向いてください」
フクロウがエヴァンネリのほうを見ると、唇に赤いものがついていた。
「私の唇から流れているものは、何ですか。血ですか」
「それは血ではありません。赤いベリーのジャムかなんかでしょう」
フクロウがホホホホホと笑った。
「どうしてわかるのですか」
「それはわかります。血の赤とベリーの赤は全然違いますから」
「確かですか」
「確かです」
「100パーセント、確かですか」
「くどいなぁ。確かですよ。少年の唇についていたのが血で、弁護人の唇についているのはジャムです」
「陪審員、傍聴者のみなさまは、その目で確かに見ておられましたよね」
エヴァは指で唇の血をぬぐった。
「これはわたしの血です。みなさまが見ている前で、わたしは唇を噛み切りました」
傍聴席のみんなが頷いた。
なんだと。
フクロウはあまりに驚いて、椅子からころりと落ちた。係員が助けて、椅子に戻した。
「これで白フクロウさんの色彩判断力が確かではないということがわかりました。あの日に見た少年の唇についていたのは、ベリーの赤なのです。
シャツについていたのは、木の実だという検査が出ています。
しかし、フクロウさんが唇から血が流れていたと言ったことを刑事さんが鵜呑みにしてしまい、それがホンモノの血であるかどうかの検査はしませんでした。つまり、キスしたとかされたとか、そんな風紀ルールに触れるようなことではありません」
エヴァンネリは被告人を証人席に呼ぶことなく、最終弁論にはいった。
「その前に、ひとつ。スピロナさんが失踪しているということですが、見つかり次第虚偽告訴罪及び名誉棄損で訴えたい次第です。
さて、これは邪推や憶測の覆いを取り払ってみれば、簡単な事件です。
被告人は水運びの手伝いをした後、ベリーのおやつをご馳走になっていたところ、何か予測しないことが起きて、ベリーをシャツに落としてしまいました。あわてて立ち上がったところ、椅子とテーブルを倒し、音を立てたので、赤ん坊が泣きだしました。
被告人は泉に行ってすぐに洗おうとシャツを持って家を出たところ、白フクロウが待っていたというわけです。彼は風紀違反を早く見つけたいとあせっていたので、誤解してしまったと思われます。
この件は不注意によって菓子をシャツに落としただけのこと。被告人に食べ方のマナー違反があったかもしれませんが、風紀違反などというものはなく、よってここに無罪を主張します」
陪審員は3人、
全員が白旗を上げたので、ジャミルは完全無罪を勝ち取った。
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