麻生孝也+ ずっと傍で

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麻生孝也+ ずっと傍で

 呼び止められた気がした。 「冷て」  今になって俺は何を期待したのか。振り返ったタイミングで、頭に何かが落ちてきた。雨だった。 「いい加減諦めろよ」と、天からツッコミが来たんじゃないかと自嘲した。  竦めた肩を戻し、俺は周りを見渡す。  幻想的に輝くイルミネーション。定番のクリスマスソング。屋台(ヒュッテ)の前でケーキを手渡すサンタ帽を被った店員と、嬉しそうに飛び跳ねる子ども。見つめる母親の温かな眼差し。  そして、寄り添う恋人たち――。  当たり前の景色が、耳慣れた音が、何度も観てきたありきたりのシチュエーションが、なんでこうも毎回違った顔を見せるのだろう。なんでこうも、過剰に俺の胸を締め付けるのだろう。 「おかしいな。俺はもっと、スパッと潔く。あれ? うっ、くそ……」  想いが込み上げてきて、頬に零れた。一粒流れると、今まで隠していた感情を吐露するように、涙が止めどなく溢れていく。 「あ……」  開き始めた傘と傘が行き交う、その時に出来た隙間。その道の真ん中に、二人の姿が見えた。  とても、とても、眩しかった。 「そか……。付き合ったらキスくらいするよな。俺がしたみたいなのじゃなくて」  失恋したばかり。つい負け惜しみが出る。  だけど。悔しさと背中合わせになっているけど、それでも。すごく嘘っぽいけど。  良かったと思えた。  そう思えるのは、間違いなく二人のことだから。それと自分を(おだ)ててやるなら、プライドの中に隠れていた良心の所為。  だけど今、こんな俺を支えている一番の理由は――。
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