麻生孝也*第47話*今はただ君を想って

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麻生孝也*第47話*今はただ君を想って

 西園寺さんに足を掴まれていたけど、俺は腰を捻って後ろへ振り返った。 「あ……」  大雅だった。  上着は前と同じ、MA-1を着ている。下は普通にスキニーデニムっぽい。  ちょっと髪が乱れていて、らしくない気もした。 「変なところを見られちまったな」  なんか俺は恥ずかしくて、視線が落ちた。  でもそうか。大雅来たか。どのみち成海さんと話し終わったら、一人で帰るつもりだったから丁度いい。成海さんが一人にならずに済んで良かった。  そうやってへらへらと笑って、俺は大雅をもう一度見る。 「ん? 大雅、どうした?」  大雅はなぜかその場で動かない。一点を見つめていた。  それは俺でも、惨事的状況のフロアでも、同じような格好をしたお兄さんたちでもない。真っ直ぐ見ていた。  不思議に思った俺は、その視線を追おうとした。だけどその途中で視界に入り込んだ店長の様子が目に留まった。 「え……」  大きく目を見開きながら、店長は静かに零した。  それは、この場にいるはずのない成海さんの愛称だった。 「まさか、あいつ……!」  脈が昇り上がるように暴れ始める。俺はすぐに視線を喫煙室に向けた。  視界に捉えたのは、何度も首を横に振って顔を強張らせる成海さんの姿。男は嫌がる成海さんの両手首を掴み、自分の方へと引き寄せようとしていた。 「――っくそ!」  フラッシュバックした。俺が電車でしたことと重なって、胸が引き裂かれそうになった。  けど、そんな感情……自分に向けた感情なんかどうでもいい!  助けなきゃ!! 「成海さんっ、成海さんっ!」  焦って手が震える。汗ばんで滑った。それが俺のものなのか、西園寺さんのものなのかはわからない。  俺は力ずくで足に纏わりつく腕を振り解きながら、大雅に向かって叫ぶ。 「大雅早くっ!」 「っ、妃色さん!!」  大雅はそう必死に大きな声で成海さんを呼ぶと、俺たちの前を全速力で駆け抜けていった。  その声を耳にしながら、俺は状況を把握出来ずにいる西園寺さんを押し退かす。他の人たちの間を掻き分け、下に散らかる何かを踏み、俺も全力で走った。 「どいてどいてどいてっ」  どうか間に合ってくれっ。成海さんの好きな人が俺じゃなくていいからっ。  だから、だからお願いだよ。もう……あんな顔させられないんだっ! 「大雅ぁぁぁ!!」
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