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お猫のにゃん吉は空を見上げてぽつりと呟くのです。
「そろそろ桜の季節かにゃあ」
にゃん吉にとって、とても寂しい季節がやって来たのです。
普段は可愛い可愛いと撫でられるにゃん吉も、桜にはかないません。
みんなにゃん吉はほったらかしで、お花見に行ってしまうのです。
にゃん吉は思うのです。
「お花見ってそんなにいいものなのかにゃん」
そこでにゃん吉は思い切って今年、お花見に行ってみることにしました。
少し距離はあるけれど、にゃん吉でもなんとか歩いて行けるところに大きな公園があって、たくさん桜が咲くのです。
桜の満開が告げられたのは、とってもお天気のいい日でした。
にゃん吉はひとり、ぶらぶら歩いて公園へ行きました。
にゃん吉はびっくりして声も出ませんでした。
生まれて初めて見る桜はほんとに美しかったのです。
ぽかんと眺めていると、近くに真っ白な美しい雌猫がやって来ました。
(お綺麗ですこと)
歳はにゃん吉と同じくらいでしょうか、その白猫はなぜか声には出さず、テレパシーで伝えてくるのです。
「はい…」
自分は何を言ってるんだろうとにゃん吉は思いました。桜も美しいけど、あなたはもっと美しいと思ったのです。ほんとに上品なお嬢様で心の中で(お嬢)と呟いたのです。
(お嬢様はやめてください)
「はい…」
こうしてにゃん吉はしばらくの間、お嬢猫と並んで桜を見ていました。何も会話がなくても、にゃん吉にとっては夢のように幸せな時間でした。
やがてお嬢猫はにゃん吉の方を見て、ちょっと寂しそうに笑いました。
(もう行かなきゃ)
「はい…」
(こっそりお家を抜け出して来たの)
「はい…」
もう、はいしか言えないのかよ、と情けなくなるにゃん吉でした。
もう二度と会うこともないんだろうなと思ったにゃん吉に、お嬢猫はちょっと恥ずかしそうに伝えました。
(明日も同じ時間に来てくださる?)
にゃん吉はびっくりして飛び上がりそうになるのを抑えました。
「もちろんだにゃ」
(じゃあ明日ね)
お嬢猫は少し急いだふうに、でも優雅な後ろ姿で去って行きました。
にゃん吉はやっとわかったような気がしたのです。人間がなんでお花見に行くのかを。こんな素敵な出会いがあるのなら、それは花見にも行きたくなるでしょう。
にゃん吉はあらためて桜の花を見上げてみました。満開に咲き誇る桜を見ると、自分の心も満開になって行く気がしました。
THE END
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