逆転☆同窓会

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 噴水のある南口からタクシーを拾い、10分ほどで懐かしい街に到着する。久しぶりに地元に帰ってきたのだが、あまり街並みは変わっていない。  タクシーの中で、テルモは楽しそうに「借用書」を内ポケットから出してきた。あの時の手書きのものだ。「お前意外に執念深いな」と苦笑した。 「当たり前だ。借りたものは返す。当然のルールだ。しかし飯田の奴、俺らを見たらビビるだろうな。まるで別人だからな」  飯田は最近病気になって急激にやつれたらしい、ともテルモは言った。立場が逆転だ。「お前それは不謹慎だぜ」と呆れた。  バス通りの一本裏道に、飯田の実家がやっている居酒屋「いいだ屋」がある。タクシーを降りて仰ぎ見ると、もともとボロい店だったが更に落ちぶれている。店先の「清酒 〇〇」の看板は色あせて角が欠けていた。  引き戸を威勢よく開けて中に入る。店を閉めて貸し切りにしているようで、暖簾が内側にかかっている。カウンターの中で白衣をきた若い料理人が、らっしゃい、と言いかけて戸惑った目線を向けた。 「すんません、今日は貸し切りで……」 「ああいいからいいから。奥に親父がいるだろう。ちょいとお邪魔するぜ」  薄暗い照明の通路の右手奥に、半分襖の開いた座敷席がある。数足の革靴やらが並んでおり、どうやらそこでささやかな宴をしている模様だ。テルモは躊躇せずに歩き出す。 「ちょっと、困りますよ」 「うるせえな。同級生だよ、俺らも」  そうして通路を進むと、どうしたどうした、と座敷から禿げ頭の中年男が首を伸ばしてくる。中学時代に「ハゲ」と呼ばれていたワタナベだ。 「よう、ハゲじゃねえか」  テルモは意に介さず陽気に声をかける。 「お前ら……」とワタナベは絶句して首をひっこめた。  座敷の前で革靴を脱ぎ、宴もたけなわという最中に乗り込んだ。にぎやかだった宴席が静まる。  一番奥の上座にひとりだけ座椅子に座った飯田がいて、彼は甚平をはだけて赤い顔をしていた。あとは4名。すっかり中年になったかつての「同級生」たちが、みな同じように赤い顔で戸惑った表情をしながら俺たちを見上げた。  ふと横を見た俺は、口を丸く開けたままのミナコ女を見つけた。最初は母親かと思った。ソバージュが妙なパーマに変わって、すっかりおばちゃんになっていた。時の長さよ、と俺は内心呟いた。
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