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「飯田ひさしぶりだな。今日ここで同級会をやるという噂を耳にしたのでな、ちょいと来てみたというわけだ」
テルモは立ったまま楽しそうにそう言う。奥の飯田はようやく驚いた顔を収めて「ふっ」と苦々しく笑う。テルモが言っていたように、飯田は頬がこけて5つも6つも年上のような老けた顔をしていた。
「誰かと思ったが、テルモとバンビか」
「そうだ、覚えていてくれて光栄だよ」
「悪いがお前らなど呼んでない。ここは仲間内だけの会だ。何をしに来た」
わーってるよ、と笑い声をあげてテルモは手を振る。そしておもむろに借用書を取り出す。
「用件はひとつだ。貸した金を取りたてにきた。大人しく支払ってもらえばそれでいい」
静まった座敷にテルモの得意げな声が響く。シンプルで威圧的な話し方に、やっぱ警察官だな、と俺はどうでもいいことを思った。
「お前から金など借りていない。すっとぼけたこと言うんじゃねえよ」
飯田は座椅子に深くもたれて鋭い目を向けてくる。老いてやつれたが、かつて傍若無人にふるまっていた時の尖った雰囲気は健在だった。
「そうか、じゃあこの借用書を見るんだな。お前さんのサインがある。中学時代お前はカツアゲという名の借金を俺からしたんだよ。総額27,850円だ。ちゃんと返済しますというサインをお前さんがしている。まさか忘れたとは言わねえよな」
なるほど、思い出した。確か卒業式の日に、テルモと飯田はごちゃごちゃやっていた。最後だからあいつ勇気を出しやがったと冷や冷やして眺めていた。あの時「カツアゲじゃねえよ、ただ借りただけだろ」とすっとぼけた飯田に「じゃあここにサインをしてくれ」とテルモが食い下がって借用書を出してきたのだ。面倒くさそうにハイハイ分かったぜと飯田が適当にサインをしていた。それを思い出した。テルモが清々しい顔で借用書を握っていたのは憶えている。
「そういや、そんなことがあったかな」
盃の酒を呷って、飯田が苦々しく言った。
「さて、この借用書にはこう記載されている。元金27,850円。利息は年率25%。返済期限は30年とな」
勝ち誇ったようにテルモは借用書を見せつける。改めてその借用書を見ると、一番下にものすごく小さな字で2行ほど記載されている。その部分をテルモがバンバンと叩いて威嚇した。
ちょっと見せてくれ、と飯田が手を伸ばす。テルモは歩み寄って借用書を見せつけた。まぎれもなく飯田本人のサイン。そして下の方にきっちりと極小の文字で記載された返済条件。借用書を返す飯田の細い手が病のせいなのか微かに震えていた。
「今年の3月でちょうど期限の30年目だ。全額返済してもらうぞ」
「ふざけるなよ」
「ふざけてなんかいないぜ。いいか、元金27,850円の複利で年率25%、30年目の今年で返済額は2,249万7,051円になる。3月までに耳をそろえて返済しろ」
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