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『祝福の儀式』で起きた事を、多分私は一生忘れないだろう。
「ローゼンベルク侯爵エルセベートよ。」
「はい、皇帝陛下。」
叙爵の日、煌びやかな飾りの付いた王笏を、ヴァイスブルグ家の当主でもある皇帝陛下が私の頭上に翳した。
私の祖国──ここ、神聖ハドリア帝国を統治するヴァイスブルグ家に代々伝わる『祝福の王笏』と呼ばれる聖宝だ。
公爵から男爵まで、皇族や貴族の家に生まれた者が爵位を授与される時、皇帝陛下がこの王笏を相手の頭上にかざすことによって『祝福』を授ける習わしになっている。
元々魔法の素質があった者はもちろん、それが発現していない者であってもこの『祝福』を受けると大抵は何らかの魔法の力が発現する。
どんな魔法の能力が発現するかは本人すらすぐには分からず、「夢」を通じて次第に理解してゆくものらしいのだが、白く柔らかな光が授与者を包み込むので、参列者から見ても「祝福を受けた」こと自体は分かるのだ。
で、その大事な儀式で私は──王笏が光らなかった。
いや、正確には一瞬だけ光ったらしいけど明らかに他の貴族たちとは違ってて、その瞬間によそ見してた人には何も見えなかったらしい。
そんなわけで、その場はとっても気まずい沈黙に包まれた。
「お、おお、ハインリヒの時と似ておる。これは何か特別な力が宿ったのやも知れぬ。」
ものすごくシラケた数秒の沈黙の後、皇帝レオポルド8世陛下が何とかその場を収めようと次男の名前を出してフォローしてくれたけど、それが私には余計に惨めだった。
あーもう思い出すだけで、屈辱で身がよじれそうになる!
でもってその後も(小さな頃から魔法理論やイメージの勉強はしてたのに)魔法能力らしきものは一向に発現せず、1週間以上も経ってやっと見た夢が中年男に街中で刺される夢なんて……
神様ぁ、私なんか悪いことしました!?
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