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気持ちがモヤモヤしたまま人形のようになっていた私をスタイリスト担当の侍女たちがテキパキと着替えさせ、朝食を摂るため私はそのままダイニングへ向かった。
「冷めないうちにどうぞ。」
白い大理石のダイニングテーブルにはふかふかの白パン、焼きたてのベーコンにスクランブルエッグ、粉チーズを振りかけたサラダ、じゃがいもの冷製スープ、オレンジをそのまま搾ったジュース、干しぶどうにカスタードプディングが並び、テーブルの傍らに並んだ細長いコック帽を被ったシェフ、スーシェフ、パティシエそれに配膳担当のメイド3人が最敬礼で私を出迎える。
お母様はあたしが小さい頃に亡くなり、2人の兄様はヴァルシャ帝国の竜人族との戦いで戦死、先月にはお父様まで亡くしたので広いテーブルにつくのは私1人だ。それでもメイドたちの数は家族みんなが生きてた頃と変わってない。
これって……無駄な贅沢じゃないのかな?
昨日までは頭の片隅にもなかった思いが私の心に湧き上がった。
「そういえば、今日は皇太子殿下がお見えになるんでしたっけ?」
配膳担当のメイドたちを残してシェフたちは厨房へ下がり、入れ替わりのように入ってきた執事のヨハンが私の後ろへ立つ。背を向けたまま、私は彼に問いかけた。
「はい。左様でございます。第1皇太子であらせられるルードヴィッヒ殿下がエスターマルク城の視察にお見えなので、御出迎えをしなければなりません。」
だよなぁ……今会いたくない人物で五指に入る人の名前を耳にして、私はまた憂鬱になった。
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