きっかけは悪夢だった

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 ごぅんっ!  3本マストに付いた巨大なローターを回し、轟音を轟かせて『ツェッペリン』が降り立つ。魔石を燃料としてローターを回し、その力で空を飛ぶハドリア帝国自慢の航空戦艦だ。  颯爽とタラップから降り立った金髪の貴公子、アルザス公ルードヴィッヒ・フォン・ヴァイスブルク殿下は、エスターマルク城郊外の飛行場で待っていた私達にとびきりの笑顔を振りまいた。  航空戦艦(ツェッペリン)の周りを護衛するように飛んでいた翼騎士と箒に乗った魔道士たち約50人が続いて地上に舞い降り、ルードヴィッヒ様の後ろにずらりと勢揃いする。  若いということもあって彼の階級は陸軍少佐で士官としては中堅どころだけど、皇族である上に祝福の儀式では強力な風使いの能力を授かり、その力を駆使して竜人族の戦士たちを何人も葬り去った「陸軍のエース」として知られていた。  一歩後ろに下がって控えている航空戦艦の艦長(大佐)よりよほど堂々としている。  「ご無沙汰……というほどでもないな。息災で何よりだ選帝侯殿。」  「短い間に2度もお目もじ叶い、恐悦至極にございます、皇太子殿下。」  にこやかな笑顔で近づく彼に、私は完璧なカーテシーで挨拶を返した。  「どうだい?素敵だろう。今日は我が軍最新鋭の飛行甲冑『ベーオウルフ』の初披露も兼ねているのだ。」  大きな翼が付いた深紅の全身鎧を着込んだ翼騎士たちのほうへ手を翳し、彼は自慢げに私の顔を見た。  長い角飾りを付けた飛行甲冑は確かにカッコイイけど、正直私はあんまり興味がない。  それよりむしろ、鐙付きの箒に乗って大空を舞う魔道士たちの姿に、幼い頃から私は憧れを抱いていた。  ああ、私にも魔法の力があればなぁ……今更ながらに私は自分の無能力っぷりが悲しくなった。
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