4.海

6/7
前へ
/56ページ
次へ
 三年前、悠哉はあの事があってから余計に人間不信になった。実の父親に襲われそうになったという出来事は悠哉の中で消えない傷として残り続け、その傷を癒そうとしてもなかなか消えることは無かった。そんな悠哉のそばに居てくれたのが陽翔だった。  あれから陽翔の家へと引き取られた悠哉は、生活のほとんどの時間を陽翔と共に過した。全てに脅え生活していた悠哉のことを陽翔は優しく包み込んでくれた。そんな陽翔のことが好きで、いつの間にか悠哉とってかけがえのない存在となっていた。  いつからかは分からないが、悠哉はこの気持ちは恋なのだと自分に言い聞かせるようになった。だって好きなのだから、そばに居たいと思うのだから、この気持ちは恋なのだろうと。しかし、陽翔本人に否定されてしまってはどうすることも出来ない。本当の恋を知らないと陽翔は悠哉に言ったのだ。そして、自分とセックス出来るのかと悠哉に問いた。悠哉の答えは決まっていた、陽翔とはセックスなど出来るはずがない。  悠哉にとって性欲とは気持ちが悪いものだ。中学二年生の時、思春期だった悠哉は初めてAVというものに手を出した。既に精通していた悠哉は自慰行為というものの必要性が一切感じられなかったため、性欲も平均の男子中学生よりかなり少なかったのではないだろうか。そしてAVを見た結果として、見なければよかったと後悔するほどに気分が悪くなった。女の裸や喘ぎ声に興奮するどころか、気持ちが悪いと思ったほどだ。そして何より、男が女の裸に興奮している姿に悠哉は耐えられなかった。嫌でも自分の姿に興奮していたあの人のことを思い出してしまい、それから悠哉はAVなどの類のものは見ていない。  そんな悠哉は今でも性的感情に対して嫌悪感を抱いている。だからショックだった、陽翔の言ったことが。自分とはセックスが出来ないから悠哉の気持ちは恋とは違う、陽翔はそう言っていたのだ。陽翔なら理解してくれると思っていたのに、結局は陽翔にも当たり前のように性欲があり、難波に対して性的な感情を抱いていた。  それでは自分の陽翔に対する気持ちは何なのか、悠哉は尚更分からなくなってしまった。この気持ちが恋ではないのなら恋とは一体どんなものなのか、今の悠哉には何も分からなかった。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

144人が本棚に入れています
本棚に追加