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「悠哉、お前俺の事嫌いだろ」
「なに急に」
「だってお前、俺に対する態度があからさまに冷たいだろ?」
目の前の男はそう言うと不服そうに頬杖をついた。
これは昔の記憶だ。父さんと交わした何気ない会話の一部、何故今更こんな記憶が自分の中に流れているのだろうか、と悠哉は今の状況を不審に思う。
「…好かれたいと思うならホストなんてやめて家族のために働けよ」
「働いてるだろ、俺が働いてるからお前は生きていけるんだぞ」
「子どものために親が働くなんて当たり前だろ」と悠哉は呆れた態度で言い返す。この頃の悠哉は自分自身でも自覚するほど可愛くない子供だった。だって素直になんてなれるはずがなかったのだからしょうがないだろう。それでもこうしてたまに父さんと話せることが嬉しかったんだ、一見平気な態度で冷たい視線を向けているが、内心は嬉しさで悠哉の胸の内側はドキドキと静かに音を立てていた。この人の特別になりたい、悠哉は密かにそう思っていたんだ。
「俺はお前のことが好きだぞ悠哉」
『好き』その言葉に悠哉の心臓は驚くほど大きく跳ね上がった。悠哉のことを見つめるその熱い眼差しは、悠哉の鼓動をバクバクとより一層駆り立てる。
好きだ、あの頃から自分の中に確実に存在していたこの熱い想い。俺はずっと忘れようとしていた、父さんに対する気持ちごと、俺は父さんのことを忘れようとしていたんだ。だってもうあの人は俺の傍にはいない、だから嫌いだと自分に言い聞かせてあの人を心の底から嫌った。俺は父さんの気持ちごと蓋をしていたのだ。そうしてしまえば傷つくこともないから。
それなのに今になってどうしようもなく父さんに愛されたいと思ってしまう自分がいた。胸の奥がズキズキと傷んで苦しい。
――愛されたい、俺はこの人に愛されたいんだ…。
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