7.本心

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 悠哉は家に帰り、自分の部屋のベッドに座った。すると、先程の彰人とのキスが鮮明によみがえってくる。  あの時は彰人とのキスに夢中になってしまい何も考えられなかった、その後だって思考が追いついておらずしばらくぼーっとしていたが、今になって落ち着いて状況を振り返ってみると恥ずかしすぎて顔がみるみるうちに熱くなってくる。  彰人とキスをしてしまった。今まで誰かとキスしたいなど思ったことなんてなかったのに、彰人の顔を見つめていたら自然と悠哉の体は動いて唇を重ねていた。初めてのキスは優しくて柔らかくて、悠哉にとってはとても甘いものだった。  思い出せば思い出すほど火照っていく悠哉の身体は、気がついた時にはアソコが立ち上がり主張していた。触れる前から勃起していたことなど今まで無かったため、自分でも信じられなかった。悠哉は彰人とキスをしたことで興奮してしまっている。 「ふっ…」  ゆっくりと下半身に手を伸ばすと布の上から己の主張したものに触れる。やわやわと手を動かしていると、興奮は徐々に膨れ上がっていき、堪らずズボンとパンツを脱ぎ直接握った。体を倒し横になった悠哉は、夢中で自分のモノを上下に扱ってはしごいた。押し寄せてくる快感の中「あ…っ、あぁっ…」と自然と声が漏れてしまい口からはだらしなくヨダレが垂れる。 「は…ぁっ…、彰人…っ」  彰人の体温、感触、声、彰人のことを思い出すと身体の奥からゾクゾクっと何かが押し寄せてくる。彰人が俺の体を触っている、俺にキスをしている、俺のアソコに触れている、悠哉が想像した途端、快感の波は一気に押し寄せビクビクっと身体が跳ね上がった。 「くっ…あぁっ…、イクっっ…っ」  悠哉のアソコからは勢いよく白濁が溢れ出てしまい「はぁ…はぁ…」と達した余韻で頭が真っ白になってしまった。悠哉は呆然としながらベッタリと手についた己の白濁をただ見つめることしか出来ない。  しばらく経つと、やってしまったという後悔が押し寄せる。俺は何をやっているのだろうか、彰人でヌいたのか…?  他人の姿を想像して興奮するなど初めての感覚だった。性欲というものがほとんどない為、事務的な自慰行為しかしてこなかった悠哉が彰人のことを想い、あろう事か彰人が自分のアソコを触っていることを想像しながら達してしまった。  自分は彰人のことが好きなのか、ずっと気付かないふりをしてきた自分自身の彰人への気持ち、彰人に触れられるとドキドキと鼓動が激しく脈打ち、身体中の体温が一気に上昇してしまう。悠哉の彰人への感情は当時父へ抱いていた感情と近いものがあった。彰人が言っていた悠哉が抱いていた父への想いが恋に近いものだとしたら、彰人へのこの想いも恋ということになる。そして先程のキス、これは最早言い逃れができない。例え彰人のことを好意的に見ていても、友情と同様な感情を抱いていたらキスなどしなかっただろう。しかし悠哉は彰人とのキスを嫌がりもせずに夢中になって応えてしまい、そのうえ彰人のことを想いながら自慰までしてしまった。陽翔、そして父には決して抱けなかった気持ち、悠哉は彰人に対して性的な気持ちまでも抱いてしまっていたのだ。  今まで気持ち悪いと思っていた性的な感情を自分自身が抱いてしまったことへの信じられないという気持ちとは裏腹に、彰人となら自分にも普通の恋愛というものができるのではないかという気持ちが悠哉の中に生まれる。今まで誰に対しても抱けなかったこの気持ちを彰人にだけは抱いている。自分には誰かを愛することは不可能だと思っていたが、彰人の事なら愛せるかもしれない。 「これが恋ってやつなのか…」  けれど今の悠哉には、彰人との関係について決定的な答えを見つけることができなかった。未だに揺れ動く気持ちは、不安や期待、そして新たな感情に対する戸惑いで満ちていた。自分は彰人とどうなりたいんだろうか、彰人と恋人になったらどうなってしまうのか。自分の心の中で紡がれる思いに戸惑い、自分の中ではっきりとした答えを導き出すことは今の悠哉にはまだ難しかった。まだ時間と向き合い続ける必要があるのかもしれない。  
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