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10.恋人
それから悠哉は体育館を出て彰人と合流し、二人は意味もなくぶらぶらと歩いていた。
「これからどうする?」
「これはあまりよくない提案なんだが、今からバックれないか?」
彰人の予想だにしない発言に「バックれ…?」と悠哉は思わず足を止めてしまう。
「バックれるって文化祭をか?」
「そうだ、正直俺は一刻も早くお前と二人きりになりたい」
「二人きりって…でもこれから片付けもあるだろうし俺たちだけがサボるのも気が引ける」
「お前はそう言うと思ったよ」と彰人は悠哉の頭に手を乗せるとグイッと自分の方へ引き寄せた。
「どうしても駄目か…?」
「…っ」
悠哉の耳元で呟いた彰人の低い声に、身体がびくりと反応してしまう。そして彰人は追い打ちをかけるように「お願いだ悠哉…」と囁いた。
「くっそ…お前ずるいぞ…」
「何がずるいんだ?俺はただ誠心誠意を込めて頼んでるだけだ」
全く悪びれる様子もなく平然としている彰人に対して、自分だけが顔を赤くしている状態に嫌気がさす。こんなのずるい、どこか色気のある声で魅惑的に頼まれてしまったら断れるはずがない。
「今回だけだからな…」
「ありがとう。慶と陽翔に具合が悪いから早退すると連絡しておけばなんとかしてくれるだろう」
「後で二人に嫌味を言われても知らないぞ」
悠哉はスマホをポケットから取り出すとLINEを開いた。彰人も同様にスマホを取り出し「陽翔は嫌味なんか言わないだろ」と指を動かした。
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