2.看病

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2.看病

 ブーッブーッ 「…ん……」  耳慣れた電子音がまだ覚醒していない頭の中に響きわたる。悠哉は頭の上に置いてあるスマホを手探りで探し、画面を確認すると柚井陽翔と表示されていた。なんとかスマホを手に取り通話ボタンに手をかける。 「もしもし悠哉?えっと、具合大丈夫かな、学校行けそう?」  「今何時…?」と絞り出た声は自分でも驚くほどかすれていて、喉の痛みも感じ始めていた。起き上がると身体が鉛のように重くだるい。 「すごい声だね…。朝の七時だよ、熱は測った?その様子だとまだ体調良さそうには見えないけど」 「七時…。今起きたからまだ測ってない」 「測らないと駄目だよ!その様子だとかなり辛そうだし…」  スマホ越しから聞こえる陽翔のよく通る声が頭に響いて、悠哉の気分はなおさら悪くなった。そのため「急に耳元ででかい声出すなよな、頭いてぇ」と陽翔に文句を言う。「あ、ごめん…」と陽翔は申し訳なさげに悠哉に謝った。 「で、でも…!僕心配だから今から悠哉の家に行…」 「はぁ?」  思わず陽翔の言葉をさえぎってしまう。また陽翔の過保護が発動しているようだ、と悠哉は頭を抱えたくなった。これぐらいの風邪一人でも平気なのに、陽翔はわざわざ家に来て看病するつもりなのだろう。 「来なくていい、てか来んな」 「そんな言い方しなくても…」 「来たところでもう家出る時間だろ?学校はどうするんだよ。それに俺前にも言ったよな?俺のためとか理由づけられてわざわざ学校休むようなアホ行動する奴は大嫌いだって」 「ゔっ……分かったよ…。でもそのかわり何か食べてよね…?放課後寄るからその時何か持ってくるね」  陽翔は渋々といった感じで納得した。悠哉は一安心すると「おー」と生返事をしこれ以上喋るのも辛いと判断したため一方的に通話を切った。  スマホを放り投げ立ち上がると一瞬だけ視界がぼやけ、悠哉の足元はおぼ着いた。熱のせいで真っ直ぐ歩くことすらままならないため、壁沿いに階段を下りていく。陽翔の言う通り、まずは何か食べようと思い適当に冷蔵庫を漁ってみるが、見事に食べるものがなく悠哉は落胆した。そういえば食材を切らしていることを今思い出した。今から米を炊くのも面倒くさいと思った悠哉は、ミネラルウォーターとプリンを手に取りまた二階へと戻った。  ベッドに座り「ふぅ…」と一息つく。昨日はあれから少しの食事を済ませ風呂に入ったあと、徐々に上がっていった熱に耐えられなくなりすぐに寝てしまった。寝たら治るだろうと思っていたが、治るどころか酷くなっているような気もする。身体中が熱く、昨日まではなかった頭の痛みまでもが悠哉を襲っていた。元々体調を崩しがちだった悠哉は熱には慣れていたが、身体を包むような熱さ、全身に響きわたる関節の痛み、ガンガンと頭に鳴り響く頭痛、何度体験しても辛いものは辛かった。身体が辛いと心も辛くなってくるのが不思議なもので、なんだか泣きたくなってくる。  悠哉はミネラルウォーターをグイッと口に運び喉に流し込む。冷たい液体が喉を伝っていき熱された身体を一瞬だけ冷ましてくれるようだった。食欲はなかったがプリン程度なら食べることが出来、空になった容器をゴミ箱に投げ入れ悠哉は再びベッドに横になった。  目を閉じると睡魔がやってくる。自然と瞼が下がっていき、身体が睡眠に入ろうと準備を始めているようで悠哉はふわふわとした感覚に陥った。睡魔に身を委ねていると、何故だか随分昔の記憶が悠哉の頭の中に浮かんでくる。優しかった母の笑顔、母さんが生きていた頃はまだ幸せだったな、と思い出しながら悠哉はいつの間にか意識を手放していた。
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