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14、写真
物事は計画通りに行かない。早川葵は、つくづく思う。
陽と赤坂に帰る支度をしていた時に彼女は死んだ。あれから3年が過ぎた。光は、大学生。後、2年したら研修医になる。そしたら、一緒に暮らすんだ。初期研修の期間だけ。光は早く結婚させると決めている。
光が私の養子になった時に早川家のみんなに紹介した。見ただけで親子だと分かる私と光にみんな開いた口が塞がらなかった。
「一体、幾つの時の子なの?」と真砂子義姉さんが言うので、正直に「22歳」と答えた。
真砂子義姉さんにだけ、陽の話をしてあった。最初の別れ7年の間に。
それで光の母親は誰かと察したようだ。
私は「僕はもう結婚は無理だ。」と言った。左手の指輪を見せて。
「その代わりじゃないけど、一也兄さんと真砂子義姉さんに光のお嫁さんを探してもらいたいんだ。光には無理をさせた。少しねぇ性格が……偏ってる?というかなんというか…多分、自力で結婚相手を見つけるのは無理だ。お見合い結婚で幸せになった一也兄さんに良いお嬢さんを探してほしいんだ。」
そうしたら、一也兄さんが「葵って今幾つ?」とグイグイ迫ってきた。
「44歳。」
「んなもん。お前が先だろ。」と言われた。
「でもね。僕は結婚してるんだよ。重婚はできないよ。もう、決めたんだよ。」
私が昔の「泣き虫あ〜くん」になってしまったので、それ以上は皆んな何も言わなかった。
陽と光と海斗と過ごした13年。写真をいっぱい撮った。
僕と子供たち。子供2人。子供たちと僕。光の写真、海斗の写真、陽の写真。その写真をフレームに入れてマンションの壁という壁に飾っているんだ。独り言ばかり言ってる。
「私は待っている。帰ってくるのを待っている。」
そんなことあるわけないのに、もう殆ど願望かもしれないけれど「待っている。」と言わずにおれない。
時々、思う。何かに試されているんじゃないかって。
44歳の時、神澤も亡くなった。やはり、原因不明の突然死だった。
光と一緒に神葬祭に参列した。
光はしきりに言っていた。
「アイツが、こんなにアッサリ死ぬなんて変!」
海斗は何と20歳で結婚をしていた。高校生の時からお付き合いしていた文恵さんと。式はあげていないそうだった。
神葬祭の祭員は今回も分家の人だった。しばらくは水川の神主を晃さんがするそうだ。海斗は未だ学生で階位が取れていない。
私と光は遷霊祭まで参列、つまりはお通夜でお暇した。光は赤坂の実家に泊まった。壁の写真を見てポカ〜ンとしていた。
「ちょっと大丈夫?精神科医ってさ、病んじゃう医者多いでしょ?僕が研修医になったら、ここに住むっていうのはオッケーだけど、ちょっと何とかして。僕の部屋には写真を飾らないで。リビングも数を減らしてよ。」
私は、頷くしかなかった。光は私に対して、かなりズケズケものを言う。それが嬉しい。
次の日。光は東北に戻っていった。
私はね、本当に陽を愛していたんだ。
今も気持ちは同じなんだ。君が側にいないからといって取り替えは効かない気持ちを抱いている。次はない。
他の女性を探すのが正解なんだろう。でも、私には間違っている。私は、その間違いを前の7年でしている。
愛している。簡単な言葉だ。垂れ流しだ。誰にだって言える。
でも、本当に愛を語るなら、それは言葉でない。行動で示すしかないんだ。
自分が良い思いをしていないからといって、愛する人が側に居ないからといって、それで愛は消えるものなのか?
心も無いのに代用品として他の人を探すなんて相手に失礼だ。
私は、きっと何かに試されている。
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