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俺流
ドアが開くと藤原太一がタポタポなお腹を揺らしながら部屋の中に入って来た。太一は誰もが認めるメタボだ。お腹は大きく、まるでスイカが入っているかのように丸い。
本人は自身がメタボなことを気にしていた。ようやく桜が咲いた時期にも関わらず、すでに夏に向けてダイエットを始めている。海で黒ギャルにモテたいらしい。
俺がこっそり覗き見したとき、太一はYoutubeで筋トレ動画を見ながらモゾモゾと動いていた。でも、あれならイモムシのほうがよっぽど運動していると言えるだろう。悲しいかな、今のところ、筋トレの効果は全くない。
そこで、俺の出番がやって来る。Youtubeよりも俺流のトレーニングのほうがダイエットに有効だ。名トレーナーの俺が太一に秘訣を教えてやろう。どうだ?
アイコンタクトすると、太一の目は『そうだな』と語っていた。
よし、任せてくれ。ひと通り、俺のやり方を実演するから、よく見ておけよ。
まずはこれだ。
「ふん、ふん、ふん」
どうだい、俺の高速腕立て伏せは。目にも止まらぬ早さ。強靭な腹筋と筋肉質の腕からすれば、この程度は朝飯前だな。
次は俺の得意技。
「はい、はい、はいーっ」
まさに地を這う匍匐前進は凄いだろう。股関節や腰周りの大腰筋が使われて体幹も鍛えられる。オリンピック種目に匍匐前進があったら金メダルは間違いなしだ。
最後は有酸素運動をやってみるか。
「オラ、オラ、オラ」
俺のスラロームはキレキレだ。どんな障害物でもギリギリで避けて走り抜けるぜ。もしもサッカー選手になったら高速ドリブラーとして世界的な名声を得ていたに違いない。ボールは友達だ。
さすがにちょっと疲れたな。
「はあ、はあ、はあ」
俺も若くはないし。こんなもんで許してやろう。太一、今日から教えた通りにやるんだぞ。
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