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女子高生が倒れている。
「え?」
頭の中に浮かんだ一文を疑って、もう一度状況を確認した。
行きつけの喫茶店の前に女子高生がうつ伏せで倒れている。
僕の高校と同じ制服なので女子高生であるのは間違いない。茶色がかったショートボブがコンクリートに乱雑に散らばっている。
周りには誰もいない。彼女を跨がなければ喫茶店には入れない。
……帰ろう。
何も考えず、何も記憶せず、僕は爪先を反対に向ける。
そのとき地響きのような音が背後で鳴り響いた。僕は首だけで振り返る。
「……うう」
動いた。
今まで微動だにしなかった彼女の小さな呻き声が僕の足を止める。
どうやら生きてはいるらしい。そんなこと僕に気付かせないでほしかった。
僕は小さくため息をつく。
「……大丈夫ですか?」
しゃがみこんで倒れている彼女に声をかける。
軽く肩を叩いてみたらまた地面を揺らすような音が鳴った。さっきの音源は彼女だったのか。
「お腹」
「え?」
「お腹空いた……」
今にも消え入りそうな声で彼女はコンクリートに話しかけた。
行き倒れ? この時代に?
目の前の喫茶店のホットドッグは280円で大ボリュームだけれどそれさえ買えないほど困窮してるんだろうか。
彼女の髪の艶やかさを見る限り、そんな風には思えないけど。
「……あの」
女子高生がゆっくりと顔を上げた。
ぱっちりと丸い茶色の瞳がこちらを向く。その美術品のように整った顔に僕は思わずどきりとした。
頬にはうっすら砂がついているが、むしろそれは彼女の唯一の隙となり好印象でしかない。
こんな美少女がどうして行き倒れに?
僕の頭に浮かんだ疑問は、続く彼女の一言で吹き飛ばされた。
「お腹が空いて動けないので、私に恋してくれませんか」
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