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 羽見恋花(はねみれんか)は、恋心を食べる。  自分に向けられた恋心だけが彼女のお腹を見たし、血となり肉となり、心身を健康に(たも)つという。  最初は意味がわからなかった。なんなら今も意味はわかっていないが、僕が行き倒れていた恋花の手を握ると彼女はすぐに動けるようになるまで回復した。  ただ事実としてそれを受け入れているだけだ。 「文字通り食い漁ってるとは思わなかったよ」 「食べてるけど漁ってはないよ。みんな一日三食だけど、私は一日一食で済むし」 「小食なんだな」 「そういうこと」  外を歩いていた男性が窓越しにちらりと恋花を見た。もう何度も感じた視線だ。仕方ないことだと思う。  彼女は人に恋されるように神様にデザインされているのだ。生きていくために。 「あ、もうこんな時間。帰らなきゃ」 「ほんとだ。送ってくよ」  彼女の家は門限が厳しい。あまり遅くなってしまうと不審者に絡まれるかららしい。  やっぱり大変だなと僕は思う。 「じゃあまた明日だね」 「ああ、また明日」  店を出て彼女の家の前に着くと、僕はつないでいた手を離して恋花の頭に乗せた。さらさらとした彼女の髪の毛を撫でると彼女は満足げな表情を浮かべる。   毎日手をつなぐことと、頭を撫でること。  それが恋花と付き合うにあたっての条件だ。 「ふふ、ごちそうさま」    嬉しそうに微笑む恋花は僕から離れて玄関の扉を開けた。  僕が小さく手を振ると、彼女も小さく振り返しながら扉の向こう側に消える。  これが彼氏と彼女なのか。  まだよくわかっていないけど、ひとまず僕は彼女に恋をしているようだった。
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