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「あとちょっとで一区切りつきそうだ、小説」
「あ、ちゃんと進んでたんだ」
「いつも目の前でカタカタしてたろ」
「いつも目の前でカタカタしてるけど何してるんだろ、って思ってた」
恋花はティーカップを持ち上げる。カタカタしてたら書いている、という認識は一般人にはないらしい。
僕たちは今日もいつもの喫茶店でいつものメニューを頼んでいた。テーブルの向こうにはいつものように美少女が座っている。
「それ完成したら本になるの?」
「そう簡単にはいかないと思うけど、まあ挑戦はしようかな」
「本になったらいいなあ」
「本好きだったっけ?」
「いやそれほどだけどさ」
恋花は変わらぬ口調で言葉を続ける。
「でも本になって本屋さんに並んだら、この時間もずっと残りそうじゃない」
恋花の何気ない台詞に僕はカタカタしていた指を止めた。
顔を上げると不思議そうに首を傾げる彼女がいる。どうやら無意識のようだ。
彼女はいつも無くなることが前提の話をする。人よりも多くそれを見てきたからだろう。
けど、なんだか気に入らなかった。
「そういえば僕たちが付き合ってもうすぐ三ヶ月だな」
「あ、ほんとだ。やばい」
「やばくないよ」
僕はじっと彼女を見る。美人は三ヶ月で飽きるらしいが今はまだ実感はない。
それでも確かに出会ったばかりの緊張はなくなっていた。ドキドキするのが恋なら、僕の気持ちも磨り減っているのかもしれない。
「前にさ、僕の恋愛は善意だって言ってたよな」
「うん、言ったね」
「そんな綺麗なもんじゃないと思うんだよ」
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