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「そんな怪しいこと、してませんよ」
がやがやと居酒屋が続く街の中、私はかき消されるくらいの声で呟いた。すると、橋本さんは、ぽんと私の頭に、私より大きな手を乗せた。
「信頼してるからこそ心配だったんだよ」
ま、大丈夫そうな店だったから良かったけどな。そう言いながら、ぽんぽん、と優しくなでる先輩に、私は何一つ言えなくなる。
仕事でミスをした時も、あるいは良い業績をおさめた時も、橋本さんはこうやって、頭をなでてくれる。私に限らず、男女を問わず、他の後輩に対してもそうだ。初めてされた時は驚いたが、褒める時の癖なのだと、かなり前に気が付いた。
恋愛感情が無いと、レイさんと話していたときに私は言った。それは本当だ。
しかし、憧れの人のその癖が、私は結構、好きだったりする。
「……ありがとうございます」
少しの照れを隠すように、私は先輩を見上げて、はっきりとお礼を伝えれば、橋本さんは少し驚いた顔をして、いつものように明るく笑った。
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