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「間宮さん、おはようございます」
「あっ、佐野さんおはよーう」
控えめな会釈をお供に、佐野さんが隣席に座る。毎度恒例の席順ではあるが、決して必然などではない。
なぜなら、このオフィスは自由席システムを導入しているからだ。
他に空きがあっても、佐野さんは必ず隣を選んでくれる。そこからも、嫌われてはいないと確信できた。
「これ、昨日話してた映画のDVDです」
「え、早! うわー! 嬉しい!」
なんなら、物だって貸してくれるし。
「しばらく見る予定はないので返却はいつでも大丈夫です」
「ほんとー。ならじっくり見て感想言うね!」
「はい」
て言うか、プライベートのこととかも、嫌な顔せずに答えてくれるし。後輩曰く、『そういうの聞かれても、気のない相手には適当に流す』らしいし。
だから、恐らくは佐野さんも心を許してくれている――のだと一方的に思っている。自意識過剰じゃないことを願いながらだけど。
内心はこんな萎びた野菜みたいって、気付かれていたりするのかなー。
考えながらタイピングしていると、下方から間抜けな音が聞こえた。もちろん腹の音である。始業後にすぐ鳴るのだって、まぁ恒例っちゃ恒例だ。こんな時は間食するに限る。
菓子パンを選ぶべく鞄を漁っていると、またも手が伸びてきた。
「食べます?」
ホワイトチョコレートが箱ごと乗っかっている。それも二箱も。崩れ落ちる前に受け取った。
「いただきます! 嬉しいー!」
甘ければ甘いほど脳が喜ぶ。それだけでも嬉しいのに、佐野さんからの差し入れとあれば元気にならない訳がない。
「あっ、じゃあお礼にパン要ります?」
「要らないです」
「はーい!」
パンを片付け顔をあげたら、横顔は既に仕事モードだった。
こういう、めちゃくちゃ切り替えが早いところも好きだ。
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