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「じゃあ、お昼行ってきます!」  時刻は十一時。小腹を満たしながら耐え、食堂へと駆け出す。本当はもう少し早い方がいいが、食堂のオープンがこの時間なのだ。  食券機を連打しながらも、撃沈初代二連発を思い出す。  初めて佐野さんを誘ったのは、食堂での食事だった。あえて外に出てと言うのも、ハードル激高かもしれない。と食堂にしたが見事に断られた。『お腹が空かないので』と。  ならばと二度目は十四時まで待ってみたが、『いいです』と一蹴された。華麗なお断りだった。  ちなみに三回目は、帰りに誘って普通に断られ、四度目はついに『本当にごめんなさい』と謝られた。それから一年半後、五回目がつい先日のエレベーターである。    確かに俺の食べ方は、気持ちのいいものではない。速度は早いし、めちゃくちゃ大量に食べるし、食事内容だって健康的とは言いがたいし。こんな大食漢、一緒に食事したくないと思われても仕方がない。  だからと言って、改めるのも身体中がデモンストレーションを起こしそうだし。  なんて言い訳をしてしまうほど、俺にとって食事は人生の要なのである。    食堂が盛り上がり始めるのは、大体十二時からだ。正午までは人がまばらで、そのぶん会話もよく聞こえる。あ、聞き耳とかたててる訳じゃないよ。聞こえるんだよ。 『ダイエット中なのであんまり食べないようにしてるんです』『スレンダーなのに頑張るねー』  次はカツ丼かパスタが先か――と考えていた脳に佐野さんが出現する。体重計に乗る姿が描かれた。  確かに、彼女が何かを口にするシーンすら俺は見たことがない。けれど、そもそも食べたくないのなら、そうなるのも頷ける。  これは希望を持ってもいいのではないだろうか! 『でもこの間、主任にご飯誘われて行ってなかった?』『それは行くに決まってるじゃないですか! それとこれとは別!』  なんて、一瞬でヒビが入ったけど。 『気になる相手が誘ってくれたら普通行きますよー。ずっと食べないのも無理ですしー』  いや、二瞬で砕けたけど。    やっぱり俺は、脈なしのようです。
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