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お腹一杯食べたとて、つまみ食いを連発したとて、時間が経つほどにお腹は空く。
人の何倍も空腹体質な俺にとって、残業は試練だった。終業を求める腹の音が、静かなオフィスで響いている。
本日決着がついたのは、十九時を回った頃だ。
佐野さんは本当にお腹が空かないらしく、今の今まで食べものの影をちらつかせていない。
このまま二人でご飯屋にでも――と考えはしたが、誘いすぎもしつこいぞと自分を制した。
エレベーターで一階まで降りる。静かな上、密室なせいでお腹の襲撃は酷いものだ。
「はは、めっちゃお腹空いちゃった! 佐野さんは今日夜ご飯どうするの? なんか食べる予定ある?」
「私ですか。昨日作りすぎたカレーですね」
「わ、佐野さんのカレー美味そう! 食べたくなるわー」
って、ねだってるみたいじゃん! と無意識の罪に心でのたうち回る。嫌な男になっていないか、心配しながら平常心を被った。
「お、俺も帰りカレー屋寄ってこうかな!」
お願い、嫌わないで佐野さん!
――願いも空しく、お開きの合図が鳴った。
カレー屋のカレーは、辛み度数を間違えたのか超辛かった。美味かったけど。
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