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「間宮さん、おはようございます」
いつも通り、佐野さんが横に腰かけた。微風が発生したせいか、カレーの臭いが鼻を掠める。
ワイシャツは変えたが、ジャケットは昨日と同じものだ――ってあっ、俺から臭ってる!?
衝撃を受け、密かに確認を試みた。不自然にならないよう、鼻を寄せる。
「どうかしました?」
失敗したみたいだけど。まともに確認できないまま、顔をあげてはにかむ。
「昨日カレー屋行ったんだけどね、臭い上着につけたまま来ちゃったかも! スプレーとかすればよかったなぁ!」
佐野さんは表情一つ変えず、そうなんですかと呟いた。
感情の欠片一つ溢さず、不意に鞄を漁りだす。視線が引っ張られたが、プライベートを盗み見ることになりかねないとすぐ反らした。
「カレーの匂いなら私かもしれません、これ」
「えっ?」
だが、速攻引き戻される。佐野さんの手に釣られていたのは白い手提げのビニール袋だった。
「お裾分けです。ご迷惑でなければですが。あ、辛めです」
「カレー……佐野さんの……?」
中にカレーがある実感が沸かず、透視を試みてしまう。
「はい」
だが、試みは不要だった。一声で実感が全身を包み込む。そうなれば、次に沸き上がるのは歓喜しかない。
「えええ! めっちゃ嬉しい! ありがとう昼飯にする! 早く昼にならないかなー!」
おおはしゃぎに一瞬引いていた気もするが、気のせいと流しておいた。
喜んだのは手料理が食べられるから――だけではない。嫌われていないと分かって嬉しかったのもある。『食べたくなる』を文字通りに受けとってくれる純粋さも、テンション爆あげの一因を買った。
カレーの味は、思うより辛口で驚いた。けど、店のものより遥かに美味しかった。
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