花祭り

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「御札だよー。邪気祓いに怪我治療、肺病に利く御札もあるよー」 「熊肉あるぞ、熊肉! 新鮮な熊肉が手に入るのは今だけだ!」 「トラクター 最新型 展示 シテマス 遠隔操作機能付キ アリマス」  四界皇の丘を臨む麓の街では、『花祭り』に合わせて市が立つ。年に一度の貴重な機会、連なる石畳に話の花が咲いている。 「おやおや、お久しぶりだこと。機界での暮らしはどう?」 「機界の工場は単調だけど機族の連中は失敗があっても怒鳴ったりしないから気楽でいいよ。ま、数字には煩いけどさ」 「おばさん、お元気?」 「ああ、元気さね。あんたも人界は3年になるんかね?」 「ええ、お友達もできたの。占いの仕事も順調なのよ」 「道を開けろ? 機族がデカい面すんな! 猛族一の怪力を持つオレ様相手にいい度胸だ!」  酔っているのか猛族の大男が、大型の機族と喧嘩になっている。 「相撲で勝負だ、おらぁ!」  猛族の男が仕切りの構えに入る。 《ピー……『相撲』ルール ヲ インストール シマシタ デハ 相手ヲシマス》  機族側も身体を沈める。 「おいおい、面白そうな勝負が始まったぞ! 賭けだ、賭けだ! どっちが勝つか賭けだぞ!」  野次馬が取り囲みながら、対決を煽っていた。  ……楽しげな空気の間には、暗い話題も垣間見える。 「ねぇ、機族の針屋さん。去年より随分と針が値上がりしてないかい? それに去年買った2号針は今までより早く針先が鈍るんだよ」 《硬化用コバルト ノ 採掘量ガ 年々減ッテイマス。機械油不足デ 用途制限 サレテイルノデス》 「ちょいと猛族の魚屋さん、ゴーデルデンバデッシュの干物が『1人につき1匹まで』はないでしょう? これは肝臓の薬の調合に欠かせないんだよ」 「済まんな、魔族の婆さんよ。こっちとしてもっと売りてぇところだが何しろ不漁でな。資源保護で底引き漁が禁止されてっから、こっちも大変なんだよ」 《ピピ! コノ グリス 前年ヨリ 1缶 ノ 量ガ 12% 減少シテイマス 価格ガ 不適正 デハ アリマセンカ?》 「悪いな、機族のおっさん。極圧添加剤に使うサテラン油の種は魔族から買っているんだが、今年は収穫量が少ないんだとさ。まぁ、次は豊作になると信じて、今年は大事に使ってくれや」 「やれやれ……何処も渋いねぇ、今年は」  人族の男がため息をついた。 「まったくさ! 最近はギスギスすることが増えて困っちまうよ」  魔族の老婦が悪態をつく。 「何買っても高けーし、売るときゃあ買い叩かれるしなぁ」  猛族の若い男がちっ! と舌打ちをする。 《コノ 問題 ヲ ドウニカ スル 手ハ ヒトツ ダケデス》  機族の一人が『丘の上』にカメラアイを向ける。 「そうだな」  人族の男がその先に見える白亜の宮殿を心配そうに見つめる。 「四族間の揉め事は『花祭り』で解決して貰う他ない」 「……期待するしかないねぇ。四界皇様に」  そう言って、魔族の老婦は踵を返した。 「でないと、いずれ内紛になっちまう」
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