花祭り

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 話が決まってからは速かった。何より迅速を要求されるのだ。その様はまるで種火が火事に広がるが如くにて。 「幹にコモを巻け! 添え木を縛るための保護だ!」  ハオトの弟子たちが幹へ丁寧にコモを巻いていく。 「添え木だ! 集成五寸角四間の極長を四本! コモにがっしり紐で巻き付け、地面と水平を保て! 添え木の両端に石材を積んで樹の重みに耐えさせるんだ!」  急遽呼寄せられた猛属の大工達がサンクチュアリの樹を支える『添え木』を固定する。これで根元の土が少くなっても倒木の危険はない。 「掘り出し! まずは南側からだ」  鉱山から搬送されてきた機族の小型掘削機が地面を掘り返し始める。 「掘削は大雑把でいい! 細かいところはお前達がやれ!」  ハオトの指示で、彼の弟子たちがコテとハケで細かい土を払っていく。 「ひひひ! 『風の法』にこんな使い道があるとはのぉ」  若手の魔族達が集められ、掘った土や塵を小さな風の魔法で集めていく。集まった大量の土は猛族が機族の運搬車両へ載せていく。  見る見る内に南側の地面が奥深くまで露わになってくる。 「干しゴケだ! 干しゴケを持って来い!」  ハオトが根下に身体を滑り込ませる。 「水持ちの悪いロケーションなんだ。底に干しゴケを敷いて水持ちをよくする」  糸ほどの根も傷つけることなくハオトが干しゴケを敷き詰めていく。 「土、急げ! 間に合ってないぞ!」  猛族機族合同で、ハオトの仕事場から大量の土が次々と運ばれてくる。  それをハオトと弟子たちが慎重に根の間へと詰め込んでいく。 「水だ! 水魔法で土に水をくれ」  今度は魔族が水を糸のように細く操りながら詰めた土へと送り込む。水がないと土に隙間ができ、地盤が弱るだけでなく嫌気性の細菌が育たないのだ。 「栄養剤だ! サテラン0.2に獣脂を0.05! いつもの半分だ! 濃くすると樹を痛める」  ハオトの弟子たちが必死に栄養剤を撒いていく。そうして新たな土層が根っこを覆い始める。 「次! 北側の掘削を始めろ!」  ハオトの指示が飛ぶ。 「……何とか復活を願う他ありませんが」  喧騒に包まれる中、執事が両掌を組んだ。 「後はオレたちの部下に任せるしかない。四界皇復活のため、他に手はないのだ」  ぐっとホエルが唇を噛みしめる。 「ならば、我々はをするしかない。頑張ってくれる者たちに示しをつけねばならん」  同意を求めるように、ゲンゴが他の族王を見渡すと。 《理解 シマス 傍観 ハ デキマセン》  ヘルツはこの意味を理解したようだ。 「ひひひ! 仕方ないねぇ。少しばかり心もとないけどね」  トナエが肩をすくめる。 「四族のためだ。仕方あるまい」  最後にホエルも同意した。そして大きく胸を張る。 「時間が惜しい。さっさと始めるぞ」
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