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「ただいま」
家の鍵を開けると陰鬱な空気に包まれた。
「拓真、おかえりなさい」
「腹の調子はどう」
「お医者さんに怒られちゃった、勝手に止めないで下さいって」
「それで」
「内膜症、あまり良くないみたい」
ソファに横になっていた 青 はゆっくりと起き上がり、拓真に向かって手を差し出した。今日の結城紅を見せろと言うのだ。
(ーーーー面倒臭い)
カメラバッグの中からカメラとバッテリーを取り出す自身の機械的な動きに息が詰まった。
「今日は椿なのね」
「ああ」
「私も見てみたかった」
「関係者以外は立ち入り禁止だよ」
「私は拓真の奥さんなんだけど」
「ーーーーそういう意味じゃないだろう!」
「なにを怒っているの」
青 は指先で画面をスライドさせながら呟いた。
「椿の花言葉は罪を犯す女」
妖しい笑みで拓真を見上げ、拓真はその目を睨み付けた。
「怖い顔」
「その花言葉、止めてくれ」
「なに、色々と心当たりでもあるの」
「気が滅入るんだよ、鬱陶しいんだよ!」
「そんな事言うんだ」
青 がテレビのリモコンボタンを押すと18:00の報道番組が放送されていた。それを目にした拓真の動きが止まった。
<昨夜からの大雨で崖崩れが起きました>
鬱蒼とした雑木林
<民家が押し流され>
見慣れたコテージ
<発見されました>
青いビニールシートを高々と掲げ挙げた捜査員の行列
「大雨だって」
青 は愕然とする拓真を凝視した。
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