猫が姿を消したなら

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狭い更衣室に練習終わりの男の臭いが充満する。 「かけるくん、この後飯行きません?」 「ええで、けど今回は奢らんからな」 「ええーじゃあやっぱりなしで」 「なんでやねん」 そんな会話を背中で受け止める。 汗で肌に張り付いたパンツをまるで脱皮するかのように脱ぎ捨て、綺麗なパンツをカバンの中から引っ張り出した。 左足に全ての体重を載せ、右足をパンツに通す。 反対は苦労した。 なんせ右足首を痛めているのだ。 本来ならテーピングで固定するべきだが、凛太はそれを拒んだ。 痛みに耐え、全ての着替えを終えた頃には混みあっていたはずの更衣室はもぬけの殻となっていた。 履き終えたジーンズのポッケからスマホを取り出し電源を入れるとどっと通知が流れ込んでくる。 さっきまで俺の後で喋っていた2人は結局飯に行ったのだろうか。 そんなことを考えながら通知に目を通すが、何一つ頭には入ってこず、文字は意味を持たぬまま消え去った。 大きなため息をついてから検索欄に「金田かける」 と打ち込み1番上に出てきたアカウントをタッチする。 「カミエキックボクシングジム所属🥊 2戦1勝1敗。 必ずチャンピオンになる。」 丸いプロフィール画面の中ではファイティングポーズを取る金田の姿があり、さっきの会話を再び思い出す。 フォロワー数に目を移すとその数は100とちょっと。 その数字が俺の価値を再認識させた。 「練習終わり、調子良すぎるぜ!立岡チャンプ、いや、キモ岡チャンプ。殺してやるから試合しよーや」 ツイートし、部屋を出る。
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