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「その夜、再び笛の音が響き、朝には街から子供が消えていた」
半人前の魔女は、今夜もおとぎ話を饒舌に語る。
「笛吹きは望んだだけの金を得て、街は善良となった」
その物語は時に、僕の記憶とは異なる結末を迎えた。
「これが笛を吊るすストラップ。とても古いお話じゃ。ほんた…」
「ちょっと待って」
話を止める。だって、そんな訳ないだろう。
「笛吹きはお金を貰えたの?子供を連れてったのに」
「そりゃそうじゃ。子供が百と三十、もちろん良い値がつくとも」
「売ったの?ネズミと同じじゃないんだ」
「おいおい坊よ、怖い事を言わないでおくれ。ただの意趣返しで子供を川に沈めたりはせん。世の中はそれほど不条理にはできておらんのじゃ」
「えっと『街は衰え、やがて滅んだ』りしてない?」
「当たり前じゃろう。子供が連れていかれて何故に街が滅ぶ?次の年にはまた産まれるとも。そもそも百や二百がなんだというんじゃ?あの時代の乳幼児死亡率を知らんのか」
「…………」
二の句も継げない。
そうか、そうか。
「ネズミも同様、直ぐにまたわく。街は三年もすれば元の通りじゃ。変わったのは劣悪な衛生管理と約束事を守らなかった住民の性根だけ」
おとぎ話でなければ、そうなのか。
「昔、父さんから聞いた話とは違うよ」
「ふん、お父君?お医者じゃったか」
「うん、法医学者。遺体を診る人」
「随分と長生きじゃのう」
「いや、えっと…」
返答に困る、まあニヤニヤしてるので当然分かってるものとして揶揄われているのだろう。
彼女は伝言ゲームの頭から二番目。僕の父は尻から二番目である。どちらの伝聞が正確なのかと、つまり言っているのだ。
「ぼ、僕は魔女さんの結末の方が好きかな」
「嬉しい事を言ってくれる。まるで一人前にでもなった気分じゃ」
鼻歌を歌いながら食事の準備をはじめる魔女。
「自虐ネタ、笑いにくいから止した方がいいよ?」
「ふふっ、二人前じゃった坊へのやっかみかの」
僕みたいな子供の話をよく憶えているものだ。
「中々に興味深い話じゃったからの」
至極どうでもいい事だが。
僕はもしかしたら、双子だったらしい。
三歳の時に手術して、右の脇腹から『兄弟のなりかけ』を取り除いた。
「さあ、今宵はちょうどモツカレーじゃぞ」
「ひどいな、悪趣味だよ」
「魔女じゃもの。まあ偶々じゃ」
片割れである僕から離れ、手術台に安置された人間のなりかけ。その見た目はあくまでただの肉塊だったが、開いてみると髪の毛なども剖出されたそうだ。
少しだけ、ほんの少しだけ生育していたらしいその子をみて、父は『嬰児』と名前を付けた。
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