食材の魔女

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「男は鶴に化身して、千年に及ぶ寿命を全うした。万年生きる亀とは良き友人となり、姫とも善く親しんだ」  魔女が、この部屋に蒐集された品について、今日もその由来を愉しそうに語る。 「箱を包んでいたのがこの風呂敷。とても古いお話じゃ」  それは僕からしたら、いかにも胡散臭い与太話でしかないのだけれども。 「さて姫君じゃ。一体何故そんな訳の分からない事をしたのじゃろう?」 「うーん…」  そのおとぎ話に説得力を持たせているのが、他ならぬ魔女自身なのである。 「悲しみから救ってあげたかった、とか?」 「阿呆、そんなサイコな答えがあるか。正解できる質問しかワシは出さんて」  右の口角を下げて、呆れた様に嘆息する魔女。 「姫はの、男と再会したかった」 「正解できる?ソレ」  尋ねた僕に「もちろん」と頷く。その身体はローブに隠れ確認する事は敵わないが、体躯は成人のそれではなく、ともすれば小学生の僕とそう変わらない年齢にみえる。  八百年生きて、いまだ半人前であるとのことだ。 「お城で半日過ごせば外界のうん十年。男が人である以上、帰ると言ったからには二度とは会えぬ。姫はもう一度、男と会いたかったのじゃ。わがまま、かのぅ…」  少し切なそうに話を閉じて、手に持った風呂敷を元の場所に戻す。  この部屋が日本と繋がったのは、おおよそ百年ぶりだそうだ。  もしかしたら、自分の話、なのかもしれない。 「さてと、今夜はスネ肉の煮込みじゃ。骨ごと煮込んどるからしみっしみのコックコクじゃぞ」  そのままのトーンで少し微笑む、左側が欠けた顔面。  彼女は『半人前の魔女』。  この『驚異の部屋』で終わらない時を過ごす、蒐集物のひとつである
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