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 朝、目が覚めると、まず最初に目に飛び込んで来るその寝顔をいいなと思ったのは、いつからだろう。  まだ朝が始まる直前の、薄い青灰色の夜明け前。俺はそんなことを考えながら、隣で健やかな寝息を立てている温人さんを眺めていた。昨日は仕事の打ち上げで、珍しく二次会まで参加していたから、起きるのは9時を過ぎるだろうなと思いながら。  不意に、ふうっと長いため息のようなものが、彼の口から溢れて、朝の空気に溶けるようにして消えていく。頭上の窓にかけられたカーテンの細い隙間から、ぼんやりとした薄い光の筋が、真っ直ぐ部屋の扉へと伸びているのが見えた。  耳を澄ませば、遠くからバイク便のエンジン音や木々の間を移動して、枝や葉を揺らす小鳥のささやかな囀りも聞こえてくる。俺は枕に頭を預け直しながら、温人さんへと身体を擦り寄せた。  腰に手を回してぴったりとくっ付けば、彼の子供のような体温が、布越しにじわりと伝わってくるのを、彼の寝息とともに感じる。 「はるとさん」  名前を呼んでみると、思った以上に掠れた自分の声が、部屋の空気に吸い込まれるようにして消えていくのが感じられた。そして、そんなどうでも良いようなことが、無性に嬉しくなって、首を伸ばして、髭の生えかけた、ザリザリする頬に口づける。けれど、起きる気配は全くない。  それでも、隣で眠っている彼を見ていること自体が、ただただこの胸を満たし、心地良い波間で抱いてくれるような、そんな安心感に包まれた。  不意に瞼が重くなって、眠りたくないという意識とは裏腹に、ずっしりと水分を含んだかのように、瞼が自然と落ちてくる。抗いようのない、優しい力で。 「はるとさん……」  もう一度その名前を舌に乗せてみる。違和感なく、名前は綿飴のようにほどけて舌の上で溶けていった。その言葉は、驚くほど甘く喉元を滑り落ちていき、養分となって身体の内側に浸透していく。  浅い微睡に漂いながら、俺は温人さんの服の裾を軽く握った。  眠りの淵へ滑り落ちてしまわないように。  けれど、ふっと影が通り過ぎるように、世界が暗転すると、容赦のない意識の崩落が優しく、波のように全てを奪い去っていった。
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