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 俺はヒョウの言葉に対して、曖昧に笑って見せた。素直に「うん、そうだよ」と言えるくらい、ヒョウの前で素直になるべきか分からなかった。 「温人さんのこと、ちょっと狙いました」  ヒョウはとても素直な子だと思った。 迷いなく、潔く、それでいて相手を不安にさせる事のない、真っ直ぐさで相手を貫いてくる強さがある。俺はその彼の言葉に、どう返せばいいのか分からず、けれどできる限りの真摯さを持って、ヒョウを見つめた。  ヒョウはクリームシチューを掬って食べながら、 「でも、汐さん狙っちゃいそう」  なんて、冗談交じりの声で言い放つ。  ヒョウの顔に、カメラのファインダーから覗き込んだ時みたいな、うっとりとする程の魅力的な笑みが浮いていた。 「それは、だめだよ」  慌てて首を振ると、 「素直でいいね」  ヒョウが悪戯に成功した子どもみたいに笑った。からかわないで欲しいと思いつつ、ヒョウの浮かべる笑顔は嫌いなものじゃない。  不意に足元の影が揺れ、視線を逸らすと、ヒュミがリビングを出て行こうとしていた。ごはんも食べ終えたので、汐のところに行くのだろう。 「汐さん、起きないかな」  ヒョウがそう呟いた。 「シチューの素、何使ったか聞かなきゃな」  ハミングでもするかのように、ヒョウが呟く。  ブルートゥースで繋がったステレオからは、ビリー・ジョエルのピアノマンが軽やかに流れていた。
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