黒竜を駆る

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     訓練の一環として、深い森の中を進んでいた時の出来事だ。  僕たちは竜騎兵の候補生で、将来は竜に乗って戦うのがメインだが、歩兵みたいなサバイバル訓練に参加させられていた。  乗騎の竜を撃墜されて、一人脱出して逃走中。そんな状況を想定していたのだろう。  四人ずつのグループが最低限の装備で、森を一日行軍する訓練だった。  舞台となる『キャロリーナの森』は、木々の葉が大きく、広々と生い茂っている。そのため森の中には日の光が届きにくく、天気が良いはずの昼間でも鬱蒼としていた。  木々の間を縫うようにして敷設された林道も狭く、二人横並びで歩けば窮屈なほど。自然に出来た獣道(けものみち)と交わると、どちらが人為的な道かわからず、間違えて入り込むこともあり……。 「おい、ブレント。本当にこの道か?」  リーダー(づら)のジャクソンが、後ろから声をかけてくる。  顔を合わせるのが嫌で、僕は振り返らずに声だけを返した。 「どうだろう? あまり自信ないけど、たぶん……」 「自信ないだと!? 何言ってやがる! 地図はお前に持たせたんだぞ!」 「そうだ、そうだ。だからブレントに先頭を歩かせてやってるんじゃないか!」  ジャクソンに続いてスペンサーも叫ぶが、しょせんジャクソンの腰巾着。真面目に相手する必要はなかった。  でもジャクソンに対しては一応、弁明しておく方が良さそうだ。誠意を示す意味で今度はきちんと振り返り、彼の目を見ながら答えた。 「『地図は持たせた』と言われてもさ。ほら、地図以外にも色々持たされてるから……」  みんなの荷物を押し付けられることまでは耐えられるが、その状況ではいちいち地図を取り出して確認できない。だから、それを責められるのはさすがに理不尽だと感じていた。 「なんだと!? ブレントの癖に口答えするのか!」  ジャクソンは(こぶし)を振り上げて、今にも殴りかかろうとするけれど、最後尾のデニックがそれを止めた。 「まあまあ。今ここで争っても意味ないだろう? それより、いったん休憩しよう」  ちょうど少し先に、森の小道が太くなり、開けている場所が見えていた。いわば広場だ。そこで休もうという提案だった。 「それに僕は、そろそろお(なか)()いてきたが……。君たちはどうだろう?」  とデニックが続けると、ジャクソンもスペンサーも頷く。言われてみれば、僕も空腹だった。  人間は腹が減ると怒りっぽくなるという。とりあえず何か食べれば、ジャクソンも少しは落ち着いてくれるかもしれない。  色々な意味で僕はデニックに感謝したけれど、そう思うのは少し早かった。彼は笑顔で、僕に厳しい指示を出したのだ。 「というわけで、ブレント。僕たちはここで待っているから、食べ物を探してきてくれないかな?」    
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