友達なんかじゃいられない

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 アラームを消すため、手探りでスマホに手を伸ばす。俺がスマホに触れるより速く音は止んだ。  寝起きで開かなかった瞼を無理矢理持ち上げる。 「達也、おはよう」    声の方に首を動かした。  驚くほど至近距離に顔があって目を見開く。床に座って俺のベッドに頬杖をついていたのは、隣に住んでいる幼馴染の瑛太。整いすぎた顔は口角を上げ、優しく微笑んでいる。アラームを止めたのは瑛太か。 「瑛太おはよ。何でいるの?」 「迎えに来たに決まってるでしょ」  アラームが鳴ったということは、いつも起きている時間だ。学校に行くにはまだ早い。 「時間間違えたのか?」 「そんなわけないでしょ。早く達也に会いたくて、おじさんが仕事に行くタイミングで外に出て、家に上げてもらった」  何で瑛太が俺の父親が仕事に行く時間を把握してるの? 父親は俺が起きる30分前に家を出るから、30分ずっと俺が寝てるのを黙って見てたってこと? 起こせばいいのに。 「達也、好きだよ」  瑛太は俺の髪を梳いて、蜜のような甘い声と表情を向ける。毎朝瑛太に言われる言葉。  瑛太のことは好きだけど、幼馴染として。俺にとって瑛太は、カッコよくて勉強もスポーツもできる自慢の友達。 「俺は瑛太のこと友達だと思ってる」 「うん、そうだね」  酷いことを言っていると思う。好きだと言ってくれる相手に友達だと言うのだから。でも瑛太は好きと言うだけで、俺にそれ以上を求めてこない。  起き上がって床に足をついて座る。瑛太も俺の隣に腰を下ろした。 「あのさ、俺が起きるまで何してたの?」 「寝顔をおかずにしてた」  爽やかな笑顔と掛け離れた言葉が返ってきた。  ゴミ箱に目を向ける。ティッシュなんて入っていない。窓は閉まっているけど、部屋に独特の生臭さもない。 「達也の寝顔見ながらおにぎり食べてたんだよ。ナニを想像したの? 達也のえっち」  顔に熱が一気に集まる。 「瑛太の言い方が悪いんだろ! 何で俺を見ながらおにぎり食べてんだよ」 「好きな子見ながら食べるご飯って美味しいじゃん!」  恥ずかしげもなく『好きな子』なんて言われ、胸が早鐘を打つ。口を開けては閉めてを繰り返すことしができなかった。  瑛太は立ち上がって扉に向かう。 「どこ行くんだ?」 「着替えるでしょ? リビングで待ってる。達也が想像した通りのオカズにしていいならここで待つけど」 「出てって!」 「はいはい」  片手を振って瑛太が出て行く。階段を降りる音がかすかに聞こえた。  起きたばかりなのに疲れた。鏡を見ると顔は真っ赤に染まっている。落ち着くために深呼吸を繰り返した。  素早く着替えてスクールバッグを持ってリビングに行く。 「降りてくるのが遅いから、おにぎり作っといたわよ。食べられる時に食べなさい」  母親が弁当以外に朝食としておにぎりを持たせる。今、あまりおにぎりは食べたくないんだけど。理由を言えないからスクールバッグにしまい、洗顔と歯磨きだけして家を出た。  瑛太と並んで歩いて学校に向かう。  いつも思うけど、周りからの視線を集めるほどの美形なのに、なんで俺なんか好きなんだろ。俺は何もかも普通だと思う。見た目だけで人を好きになったりしないとは分かっているけど、瑛太ならよりどりみどりなのに、と思わずにはいられない。
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