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夕飯を食べ終えてベッドの上に横たわってボーッとしていると、扉がノックされた。親なら何も言わずに開けるのに、誰だろう。
扉を開くと瑛太が立っていた。瑛太もノックなんてしない。距離ができたようでますます落ち込んだ。
「……どうしたんだ?」
かろうじてそれだけ絞り出せた。
「数学のノート、友達に貸してたでしょ? 返すの忘れてたから渡して欲しいって言われて。ノートがないと宿題できないでしょ?」
数学のノートを差し出される。今日合コンに参加した友達に板書が間に合わなかったから、と言われてノートを貸したことを思い出した。ありがとう、と受け取る。宿題のことなんてすっかり忘れていた。
「じゃあ僕帰るね。また明日」
「待って!」
手を上げて踵を返す瑛太の服の裾を摘んで引き留めた。
「達也どうしたの?」
こちらに向き直って、瑛太は首を傾ける。
聞きたいことはいっぱいある。1番聞きたいことは、もう俺のこと好きじゃないのかってこと。でもその返事を聞くのは怖くて聞けない。
「えっと、……合コンどうだった?」
「みんなと連絡先を交換したよ」
「その中の誰かと付き合うの?」
「どうだろう? まだ一度しか会ってないし。デートしてみて一緒にいたいと思ったら付き合うし、思わなかったらまた合コンに参加してみようかな」
瑛太が誰かとデートする? 瑛太の隣に知らない誰かがいて、その相手に屈託ない笑顔を向ける瑛太を想像して重苦しい不快感を覚える。
「嫌だ!」
「何が?」
「瑛太が誰かと付き合うの嫌だ」
「どうして? 僕が誰と付き合おうが、友達の達也には関係ないでしょ?」
首を振る。嫌だ。瑛太に『友達』と言われるのは嫌だ、と痛いほど悔いる。
「ごめん! 瑛太にいつも友達だなんて言って。一回言われただけで、俺は心が刺されたように痛かった。瑛太はこれを毎日感じていたんだよな。もう遅いかもしれないけど、瑛太と友達は嫌だ」
滲む目から涙が溢れないように唇を噛み締める。
「達也は僕を友達としか見てなかったんじゃないの?」
「そうだよ。でも近すぎて気付けなかった。瑛太はいつまでも俺のこと好きでいると思ったし、好かれていることにあぐらを描いてた。最低だった、ごめん。瑛太が離れていくって思ってやっと自分の気持ちに気付いた。瑛太が好きだって」
堪えきれなかった涙が一筋頬をつたう。瑛太が親指で拭ってくれた。
「僕も達也が好きだよ」
瞼に唇が触れる。驚きすぎて涙は引っ込んだ。
「え? まだ俺のこと好きでいてくれたの?」
「当たり前だよ。好きな気持ちはそう簡単に消えたりしないから。物心ついた頃には達也が好きだったんだよ。10年以上思ってるんだ。こんな短期間で忘れるくらいなら、何年も好きでなんていられないよ」
「……本当に?」
「うん、本当だよ」
瑛太にギュッとしがみついた。瑛太も俺を抱きしめてくれる。温かい。この何ものにも代え難い心地を、一度は手放そうとしていたのかと思うとゾッとする。今度は間違えなくてよかった。
「達也、僕と付き合ってくれる?」
感極まって言葉が出ず、何度も瑛太の腕の中で頷いた。
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