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昨日と同じ時間に同じ扉から電車に乗り込む。まだギュウギュウって程でもないけど、人は多い。反対の扉に吉良君を見つけた。大きいと見つけやすい。人の間を縫って近付く。
「吉良君、おはよう」
「先輩、おはようございます」
軽く頭を下げた吉良君が、僕と場所を入れ替わって扉側に立たせてくれた。
「ちょっと待って! 昨日は吉良君に助けられたから、今日は僕が盾になるよ」
「いや、絶対後ろと俺に挟まれてしんどいですよ」
「でも僕だってこの電車に1年以上乗り続けてる猛者なんだよ!」
「先輩に猛者って似合わない言葉ですね」
くすくす笑われるだけで、動こうとしてくれない。僕は扉に手を付いている吉良君に閉じ込められて抜け出せない。
僕の方が満員電車歴長いから、吉良君にもお返ししたかったのに。
「これは俺が好きでやってるから気にしないでください」
「好きでやってるって何で?」
昨日初めて会った僕に何でそんなに良くしてくれるんだろ?
首を大きく反らして目を見つめる。視線が絡まると目を細めて口を横に広げ、優しい笑みが返ってきた。
「このアングルがいいんですよね」
「何が?」
「何でもないです」
次の駅に着いて、人がドッと乗り込んだ。吉良君の眉間に皺が刻まれる。
「やっぱりこの駅からキツくなりますね」
「もっとこっちに寄りなよ」
服の裾を掴んで小さく揺する。吉良君の胸が顔に当たり、上を向いた。服に口と鼻を塞がれて苦しいから。
上を向けば見下ろしている吉良君と目が合う。逸らすことも出来ずに視線が交わったままで少し恥ずかしい。
吉良君の腕が僕の項とドアの隙間に差し込まれた。
「首、痛くないですか?」
「う、うん、大丈夫。支えてくれてありがとう」
さっきより密着しているし、腕の位置的に抱きしめられているみたいで顔に熱が集まる。
「顔赤いですけど、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫。満員電車って暑いよね」
吉良君にも赤くなっていることを指摘されて、恥ずかしいのを暑さのせいにして誤魔化す。
結局学校の最寄駅に着くまで、吉良君と見つめ合ったまま過ごした。降りる頃には恥ずかしさもピークでヘロヘロだった。吉良君が引っ張ってくれなければ降りる事も出来なかったかも。
でも、あんなにかっこいい子がずっとこちらを見ながら笑いかけてくれるんだよ? 僕じゃなくても恥ずかしくなってると思う。
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